愛かスクープか。『隣人X -疑惑の彼女-』レビュー
日本政府は惑星難民Xの受け入れを発表した。
誰がXなのかは明かされておらず、Xは人間をコピー、トレースする能力を持っているらしい。私たちの日常のどこかに人間のふりをしたXが紛れ込んでいるかもしれない。誰がXなのか?本当に侵略者ではないのか!?
週刊誌記者の笹憲太郎(林 遣都)はスクープのためにXの情報を追い求める事になった。
X疑惑のある良子(上野樹里)とリン・イレン(黃 姵 嘉)を尾行する。やがて、良子と恋仲に発展するが・・・。
■誰が惑星難民Xなのか
人は分からないことに不安を覚える。しかし、犯人探しのごとくX探しをしても良いのか?
自分の身近にXがいたとしたら?Xは何人いるのか?X疑惑のある人を報道したらバッシングの対象になるのでは??
本作はSFの要素がありながら、日常と地続きとなっている作品である。
■偏見や差別。「Xのような人」がこの社会には溢れている。
普通の人達の中にいるXのような人達。
つまり、惑星難民Xを社会的少数派の人達に置き換えて観ることもできるだろう。 良子は36歳独身でアルバイトを掛け持ちし生活をしている。割合的には少数派だろう。彼女はそんな生活に満足しているが、母親との電話で「普通じゃない」と言われてしまう。彼女の幸せは彼女が決めることなのに、果たして普通じゃないの枠組みに入れて良いのか。
また、リン・イレンは日本在住の日本語を話せない台湾人である。アルバイト先を中心にコミュニケーションに障害が生じてしまい、孤独を抱えている。
何も悪いことをしていないのに色眼鏡で見られてしまう。
現代社会にはXのような人が多くいるのではないだろうか。
■2組の恋愛
二転三転する真実。ドキドキハラハラの展開を含むSFでありながら、障壁のある2組の恋愛物語でもある。
1組は、良子と憲太郎。良子はX疑惑がある36歳フリーター。憲太郎はXを追い求める30歳の記者である。自分の恋人がXだとしても変わらず愛せるか?記者としてのプライドは?難しい立場の憲太郎の葛藤や焦燥感がリアルに描かれている。
2組目は、台湾人のリン・イレンとバンドマンとして夢を追いかける拓真。
言葉の壁があっても分かり合おうとする二人。一方で、言葉が通じないもどかしさを拓真にぶつけてしまうリン・イレン。バンド優先の拓真。さらにX疑惑のあるリン・イレン。二人の恋の行方はどうなってしまうのか。
■最後に
本作のテーマはシンプルなようで深い。記者の笹が「惑星難民Xは本当に侵略者ではないのか調査しないと」と言うのは最もだと思う。ある日突然人類を危険に陥れるかもしれない。
人間同士だって、国籍の違い、性別の違い、精神・身体障害の有無、世代の違いなどで衝突することは多々ある。惑星難民となればさらに不安や疑念は増すだろう。
一方で、Xを追い求めている記者達だってXかもしれない。自分の事を棚に上げて人のことばかり追求する。正義を盾にした攻撃者。現代社会でよく見る構図である。
本作はSFという手法を使いながら、超現代的・現実的な作品である。
本当に大切な事は・・・作品を観賞して見つけてほしい。
映画『隣人X -疑惑の彼女-』12月1日(金)新宿ピカデリー 他全国公開
出演:上野樹里 林 遣都
黃 姵 嘉 野村周平
川瀬陽太/嶋田久作/原日出子
バカリズム 酒向芳
監督・脚本・編集:熊澤尚人
原作:パリュスあや子「隣人X」(講談社) 音楽:成田 旬
主題歌:chilldspot「キラーワード」
(PONY CANYON / RECA Records)
配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:AMGエンタテインメント
制作協力:アミューズメントメディア総合学院
公式サイト:https://happinet-phantom.com/rinjinX/
©2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会
©パリュスあや子/講談社