テキスタイルアート展「grasp + KOG3」 十人十色に織りなす繊維の世界

金沢
ライター
いんぎらぁと 手仕事のまちから
しお

金沢の「しいのき迎賓館」内のギャラリーで、テキスタイルアート展「grasp + KOG3」が2月12日まで開催されました。

福岡県のテキスタイル&ファイバーアート集団「grasp」の6名と金沢美術工芸大学卒の作家や在学生からなる「KOG3」の3名、賛助出品として金沢美術工芸大学工芸コースの大高亨教授が、繊維を軸にテキスタイルアートや染織技術を取り入れた約20点を展示しました。

繊維とひとくくりにしても、その材質は木綿や麻、毛糸、ポリエステルに動物性のものなどさまざま。オリジナルの染織技術を用いたり、草木染めにこだわったりと、作家さんの個性が作品それぞれに濃縮されています。

出展した10名の作家さんに取材して、作品に込められたメッセージや技法をくわしくお伺いしました。

 

岩井美佳(KOG3)「満ちる flower’s journey」

まずは金沢美術工芸大学を卒業し、作家として活動する岩井美佳さんの作品「満ちる flower’s journey」から。

岩井さんは毎日、一輪の花が咲いて散っていく様子をスケッチしてSNSへアップしています。

岩井さんは防染糊を塗った布の上に線刻して何度も染め重ねる「線刻糊防染」というオリジナルの技法を使い、花の一生を「旅(=journey)」としてその表情や色を「記憶」していきます。

制作を進める中で防染糊がひび割れていき、そのひびへ染料を流し込んでいくとその模様が葉や茎の脈や花弁のようにも見えるのが特徴です。

 

田中恭子(grasp)「protean」「revival」

田中恭子さんは綿やポリエステルを素材にした「protean」と「revival」を展示。

光や影をテーマに製作する田中さんは、天井から吊り下げた作品の重なりや透け方でコントラストを生み出します。

「revival」は2013年に製作した「ひかり」という作品をベースに復興への願いを込めて再制作し、新しい命を与える、蘇らせる、復元させるといった意味を持つタイトルを付けました。

 

大高亨(賛助出品/金沢美術工芸大学)「Flower D-Daisy」「Flower2017-Rose」

「KOG3」の3名の作家さんの恩師であり、今回「grasp」と彼女たちをつないだ大高亨教授は、2021年に「いしかわ生活工芸ミュージアム」で開催した個展で発表した「Flower D-Daisy」と「Flower2017-Rose」を出品しました。

1インチに180本という高密度で糸を織り上げた約2mの大型で厚みのある紋織物を、石川県の伝統工芸である金沢表具の職人とコラボレーションし、屏風として完成させました。

じっくりと見ていると織物ならではの立体感や模様が錯視効果を呼んで面白いです。

 

O33(KOG3)「うつせみ-ほうえん」

現在、金沢美術工芸大学博士課程に在学しているO33さんの作品「うつせみ-ほうえん」も不思議な魅力がありました。

空気を含ませて膨らませた薄い膜のようなものは、羊の腸を紡いでできています。

内モンゴル出身のO33さんにとって羊は家族のようなものだといい、生きるということや命を作品から伝えます。

 

戸次竜太(grasp)「間隔」「群集」

戸次竜太さん(戸次染工場)はシルクスクリーンと手染めで制作した2点を展示しました。

日常の瞬間を切り取って作品にする戸次さんは、コロナ禍で間隔を空けて整然としている様子を模した「間隔」、アフターコロナで楽し気に外へ出かけていく様子をクラゲのアートアクアリウムを重ねて合わせて描いた「群集」で表しています。

 

垰色スミレ(grasp)「やうやう」シリーズ

草木染めにこだわっているという「grasp」の垰色スミレさんは植物の染料を使い、自然の色が出やすい麻を染めた「やうやう」シリーズを出品しました。

西洋茜や紫根で染めた「やうやう・茜」や「やうやう・菫」は淡い色味が素敵で、手折りでプリーツ状にした布を赤い顔料で染めているのもアクセントになっています。

 

中園唯(grasp)「on going」「残照」「olternative lungs」

中園唯さんはろうけつ染めで擬人化したヤギと夕暮れの空を表現した「残照」、能登半島地震を想い日常が早く戻るよう願いを込めた「olternative lungs」など3つの作品を展示しました。

絨毯に使われる綴織の技法で制作した「on going」は建築用語で「進行中」という意味があります。

土地開発や近代化で森やサンゴ礁、絶滅危惧種の生物などが追いやられていくことに怒る女の子を織り込んでいます。

 

南里梨絵(grasp)「懊手」「馴手」「蔗手」

つながりをイメージする手を作品のモチーフにしている南里梨絵さんは、自身や家族が代々着た着物や古布を使って「懊手(おうしゅ)」「馴手(じゅんしゅ)」「蔗手(しゃしゅ)」を制作しました。

南里さんの作品名はすべて造語で、鑑賞者によって見方が変わったり「どういう意味なのかな」と思ってもらったりするのが面白さだと話します。

 

吉原美穂(grasp)「日々-10years old-」「root」

作品は「日記のよう」という吉原美穂さんは、娘さんが10歳になったときに作った「日々-10years old-」を展示。

草木が生え、落ち葉が積み重なるように進む時間の流れを表現した、暖かみのある作品です。

「root」は根っこを意味しており、人にとっても植物にとっても大事なものが深く広く伸びていくように、願いや希望を込めています。

 

新村和泉(KOG3)「吹き紛ふ」

新村和泉さんはたて糸とよこ糸が交差することに織物の根源的な美しさを感じ、よりはっきりと織物の美を表現できるよう市販の糸を撚り合わせることでオリジナルの太い糸を作り、織り込んでいます。

古語からタイトルをつけた「吹き紛ふ(ふきまがう)」では春の風の暖かさや匂いからアイデアを得て、あえて隙間を空けたり、たて糸のみで織らない部分を残すなど自由な感覚が弾けています。

 

「grasp+KOG3」展は十人の作家さんそれぞれに十色の表現があり、繊維素材の種類や使い方、技法の幅広さを存分に感じられた展覧会でした。

-今回作品を出展した作家の皆さん


grasp+KOG3

2024年2月6日(火)~2月12日(月)
10:00~18:00(最終日は17時まで)終了時間の30分前までにご入場ください。
ギャラリーA・B
入場無料

岩井 美佳 O33 南里 梨絵 中園 唯 垰色 スミレ
新村 和泉 大高 亨(賛助出品) 吉原 美穂 戸次 竜太 田中 恭子

【後 援】金沢市 / 北國新聞社 / 特定非営利活動法人3Knots~スリーノット~
【協 力】(有)戸次染工場
【事務局】田中恭子grasp

※本展覧会はすべて終了しております。

プロフィール
ライター
しお
ブランニュー古都。 ふるくてあたらしいが混在する金沢に生まれ育ち、最近ますますこの街が好きです。 タウン情報サイトの記者やインターネット回線系のまとめ記事などを執筆しながら見つけたもの、感じたことをレポートします。 てんとうむししゃ代表。

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