厄年なんて関係ねぇから

宮城・仙台
ライター
KIROKU vol.03
佐藤 綾香

 

32歳現在、厄年真っ只中である。

厄年だからどうのこうのと気にする性分ではないし、誰にいつ何があってもおかしくないと心得ているつもりだ。

ところが今年に入ってからの3ヶ月間を思い返してみると、厄年の呪縛を感じずにはいられなくなる事案がいくつか発生している。

 

もう少し待てば車検だというのに、車が故障して一気に6万円もとんだ。

大切に育てていたはずのハーブが枯れた。

インフルエンザにもなったことがないのに、いまさら新型コロナに感染して(たぶん)地獄の一歩手前あたりをさまよった。

ネットショッピングで「個数:1」と選んだはずの商品が3つ届いてしまったので確認したら「個数:3」で注文されており、紛れもなく自分のミスだった。

 

こんなふうに悪いことが起こるたびに、わたしは「これって厄年の仕業?」と得体のしれぬ呪いに腹を立てた。

そもそも厄年ってやつはなんなのか。

生意気にもほどがある。

「今年もいい一年にしよう」と一所懸命生きようとしているのに、そんな希望いっぱいの年を勝手に「厄年」と決めつけ、「神社でお祓いをしろ」だの、「お守りを持っておけ」だの、最終的にはお金で解決させようとしてくる。

なんてよくできた厄年ビジネス。

エゴイスティックに「厄」を押し付けてきたくせに、ちゃっかり利益までつくろうとしてくるとは。

というか、会ったこともない人間に厄年と上から決めつけた「おまえ」は一体どこの誰なんだ。

 

しかし、厄年のことを何も知らないまま悪態づくのはさすがに申し訳ないので、とりあえずネットで検索してみた。

情報をざっと集めたところ、厄年は「悪いこと」だけじゃないことがわかった。

厄年は「災難の多い年」といった意味のほかに、30代を「人生経験を積んで人の役に立てる年齢」とする見方で「役年」と捉える説もあるのだとか。

 

なるほどね、で終わりたいのは山々なのだが、ひねくれ者のわたしは役年説に対しても物申したい。

なぜ、自分が人の役に立つのかどうかも、一方的に決められなければならないのだろうか。

人生経験を積んだとして、わたしが得てきたものは万人の役に立つとは限らない。

「わたし、役に立ちますよ」と前に出られるほどの、立派な人生を堂々と歩んでいるわけでもない。

役年説を素直に受け入れたとして、わたしの「役」は正反対の価値観をもって仕事や遊びに向き合っている人にとっては、きっと鬱陶しいものとなるだろう。

もちろん人の役に立つことは素晴らしいことである。

でも、わたしは考えなしに余計なお節介は焼きたくない。

もう一つ言いたいのは、人生経験を積んできたとされる30代でも、いまだに日々学ぶべきものがあるし、自分よりも若い世代の言葉にも耳を傾けなければならないということだ。

「人生経験がある」と思い込む(または側から言われる)のは、大人としての自覚が芽生える一方、いまの自分の価値観が正義だと錯覚する危険があるのではないか。

「自分が正しい」と信じすぎて人の言葉を切り捨てることが、ひょっとしたら相手の自由を奪い、生きづらさを助長させてしまうかもしれない。

そんな悲しくて貧しい世界はいやだ。

話は外れてしまったが、つまり、わたしは人の役に立つことを生きがいにしているわけではないので、やっぱり役年説にも懐疑的になってしまうのだ。

「役年説もあるよ」と機嫌をとられたところで、無駄なプレッシャーを課し、高慢さを生むきっかけを与えているようにしか思えない。

 

「厄年」と「役年」。

これほど大きな意味の揺れがあるなんて、ずいぶん都合がいいなと思う。

そう考えると、友人が初詣で放ったとある一言がさらに沁みいる。

厄年ということもあり、わたしは絵馬を書いて今年の幸せと健康を一応祈ったのだが、一緒に詣でた友人が言った。

「厄年なんて関係ねぇから」。

厄年じゃなくても嫌なことはあるし、厄年だとしてもいいことはたくさんある、と友人は続けた。

なんて心強い言葉なんだろう。

都合のいい言葉と意味に踊らされるよりも、わたしは自分の目の前にいる大切な人たちの言葉を信じていたい。

 

 

と、かっこよく締めたいのだが、さきほど帰宅したら飼い猫にカーテンをビリビリに破かれていた。

きっと誰も悪くない。

わたしは飼い猫に「今日はたくさん遊べたんだね」と語りかける。

一方、お気に入りのカーテンを破かれた自分には心のなかで「厄年だもんね」と寄り添った。

都合のいい言葉は、非常に便利だ。

プロフィール
ライター
佐藤 綾香
1992年生まれ、宮城県出身。ライター。夜型人間。いちばん好きな食べ物はピザです。

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