ミュージカル化で世界をさらに拡張、「ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド」
「千と千尋の神隠し」「バケモノの子」「四月は君の嘘」「フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~」「キングダム」「SPY×FAMILLY」「のだめカンタービレ」とここ数年相次いだ漫画・アニメの舞台化。その中でも最も期待され、そして最も険しい道のりが予想された「ジョジョの奇妙な冒険」がついにミュージカル化された。
アニメ化はもちろんのこと、ゲーム化、小説化、映画化と多角化してきた世界に冠たる作品だが、スタイリッシュな描画、観念的な必殺技、西洋の教養や歴史に基づいたストーリーテリング、何世代にもわたる登場人物、単なる画一的な善悪論では片づけられない展開、哲学的な宿命論など、観客と同じ空間で生の演技を使って表現する舞台という表現方法にマッチさせることがどれほど難しいかを痛感させられ、初日が遅れるなど予想通り大変な時間を費やしたが、スタッフ・キャストらは粘り強い創作に挑み、一定以上の成果を上げた。
(画像はミュージカル「ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド」とは関係ありません)
荒木飛呂彦の原作「ジョジョの奇妙な冒険」は、集英社の少年向け漫画雑誌「週刊少年ジャンプ」で1986~2004年に、2005年以降は集英社の青年向け漫画雑誌「ウルトラジャンプ」で長期連載中の漫画作品。シリーズの単行本は合計で100巻超、全てを合わせた単行本の全世界累計発行部数は1億2000万部(2022年現在)超。「少年ジャンプ」が培ってきたライバルとの闘いと、仲間たちとの絆をテーマに、スタイリッシュな絵と映画的な展開で、大人をも魅了する作風。それは世界中のファンをうならせている。外伝作品が多いのも特徴的で、中でも『岸辺露伴は動かない』は一人歩きをし始めている。
現在までにpart1からpart9までのシリーズが発表されているが、すべてが連続した一つの物語ではなく、19世紀から21世紀までのさまざまな場所が舞台となる。各partもホラーの要素が強いものとバトルアクションの要素が強いものが混交しており、クライムサスペンスの要素も強まってきている。すべての始まりは英国の貴族、ジョージ・ジョースター卿。その血統を継ぐものの物語である。
ミュージカルはpart1「ファントムブラッド」でスタートした。ジョースター卿が命の恩人の頼みで養子にした男の子ディオが一人息子のジョジョと兄弟のように育った親友として、永遠のライバルとして並び立ち、やがて宿命の対立関係に陥ってしまう物語である。貴族階級の生活様式や建築など古式ゆかしい設定はミュージカルと相性が良かった。加えて、底辺の生活と上流階級が著しい格差を持っていた英国社会の描き方もミュージカル向き。善悪の闘いは「ジキル&ハイド」や「レ・ミゼラブル」にも通じるテーマだ。カギを握るメキシコ古代文明の石仮面も歴史ロマンを掻き立てる。「舞台上での表現」という制約も、逆に喜怒哀楽や感情のたかまりなどを音楽や舞台装置、映像などで増幅できるミュージカルでは強みになった。ジョジョは健やかな成長を感じさせる歌い方や演技が特徴的で、ディオは人間の暗部や社会の闇までも取り込み、悪さえ支配しようとする欲望を感じさせる。光と音の演出、そしてプロジェクションマッピングやレーザービームなどもまさに舞台、ミュージカルの真骨頂。感情を揺り動かす点で言えば、実写映画やアニメをも凌駕している。
運命と宿命に抗おうと奮闘するジョジョ役の松下優也・有澤樟太郎(Wキャスト)、狂気に堕ちていくディオ役の宮野真守。語り手をスピードワゴンに扮したラッパーのYOUNG DAISが務めることで、物語の説明に終わらず、緊張感を持続させる役割も果たした。
演出・振付にはダンスを表現方法に取り入れた劇団「富士山アネット」の主宰者で、noda・mapの舞台への出演でも知られる演出家・俳優の長谷川寧があたり、音楽は宝塚歌劇団オリジナル作品での作曲を手掛け、宝塚版、東宝版のミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」や昨年上演されたミュージカル「キングアーサー」でも注目されたフランス人音楽家、ドーヴ・アチアが担当。脚本・歌詞には劇団「エムキチビート」を主宰する演出家、元吉庸泰があたるという、クリエイター集団の挑戦的な作品となった。再演で深度を深めるのか、物語のpartを進めるのか、すべてが未定だ。いずれにしても、回を重ねていくことでさらに原作の世界が拡張できるはずだ。
ミュージカル「ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド」は、2024年4月9~14日に兵庫県西宮市の兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホールで上演される。それに先立ち2月6~28日(2月6~11日はスタッフ・キャストの安全確保に努めながらの準備に更なる時間を要したため中止)に東京・丸の内の帝国劇場で上演された東京公演と3月26~30日に札幌市の札幌文化芸術劇場 hitaruで上演された札幌公演はすべて終了しています。