あの情景を表現できる言葉は?写真集『記憶色』に寄せて

福岡
ライター
kosaka
香坂

日本の季節は春夏秋冬に大別されるが、更に細かく「二十四節気(にじゅうしせっき)」に分ける方法もある。

 

これは1年の太陽の黄道上の動きを視黄経の15度ごとに24等分したもの(※)で、それぞれの四季ごとに中期(ちゅうき)と節気(せっき)と呼ばれる時期が交互に3回ずつ訪れるようになっているそうだ。

 

※引用元:国立天文台(https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/faq/24sekki.html

 

新暦で言えば2月の立春や5月の春分、6月の夏至、12月の冬至あたりが特に印象的ではないだろうか。

 

例えば4月に関しては、以下の節気、および中期が設定されている。

 

・清明(せいめい):毎年4月5日ごろ

・穀雨(こくう):毎年4月20日ごろ

 

二十四節気の考え方は中国から伝来したため、正確には日本特有のものではないが、その言葉の響きには日本語ならではの美しさも滲む。日付と照らし合わせることで、その時々の想い出の風景が浮かび上がって来る、という方も少なくないはずだ。

 

季節や風景は、鮮やかな“色”として脳裏に刻まれる。

そんな感性に寄り添うように生まれたのが、写真家である野呂希一さんによるイメージ集『記憶色(きおくしょく)』だ。

 

氏が撮影してきた日本各地の自然風景に合わせ、趣ある季節の言葉や、色彩の名が紹介されている本書。

何といっても「記憶色」というタイトルに心惹かれ、吸い込まれるように手に取った。

 

確かに頭の中に想像はできているのに、この色をどう説明したものか…と迷うことは多い。

その答えの道しるべを示してくれているようで、1月から順にページをめくっていく。

 

清明や穀雨であれば、桜の時期特有の薄暗さを表す「花曇り」や、天気の変わりやすさを譬えた「桜雨」など、鬱蒼とした気候でさえ嫋(たお)やかに表現する方法が様々に存在することが分かる。

 

そして、情景とともに蘇る「薄桜(うすざくら)」や「菜の花色」、「退紅(たいこう)」、「留紺(とまりこん)」といった豊かな色合いたち。

ともすれば情報量の多さに目移りしてしまいそうだが、本書ではその言葉の広がりを“寄り道”として、散策気分で楽しめるよう工夫されているのも印象深い。

 

また、一度は目にしたいと願いながらも未だ縁がない「花筏(はないかだ)」への憧れなどを思い起こすきっかけにもなり、今後も季節ごとに少しずつ紐解いていきたい、と感じさせられた。

 

 

 

「記憶色」は自然と脳内で補正されやすく、現実の色とはかけ離れる傾向が強いと言われる。

しかし、仮に実際に目にした風景に基づいて記憶されたものだとすると、裏を返せばそれだけ感動的な経験として深く心に残っているとも考えられるだろう。

 

これからもリアルと空想の狭間で悩みながら、頭の中にある情景を形にできるよう言葉を尽くしたい。

 

 

 

【参考文献】

 

野呂 希一著『記憶色』(2022/6/8初版発行・‎青菁社)

プロフィール
ライター
香坂
オリジナル会葬礼状のライター業を経て、現在はWEB系のフリーライターとして活動中。漢字とひらがなのバランスに悩むのが好き。仕事におけるモットーは「わかりやすく、きれいに」。趣味はお酒・アイドル・展覧会鑑賞・化粧品・創作。

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