いちごの王さま
いちごの王さまといえば?
「あまおう」?「とちおとめ」?
いえいえ、今回はそっちではなく、株式会社サンリオの創業者である辻信太郎さんをモチーフにしたキャラクターについてです。
石川では昨年末から3月にかけて金沢市で「サンリオ展金沢 ニッポンのカワイイ文化60年史」が、3月末から4月にかけて能美市で「サンリオデザイナー展」が立て続けに開催されました。
一応日本の女子として生まれたからには、キキララ(リトルツインスターズ)やマイメロディ、チャーミーなどそれなりにサンリオ道を通ってきたわたくし、どちらも当然足を運びます。
サンリオのキャラクターは一般常識レベルにわかるつもりでしたが、「サンリオ展金沢 ニッポンのカワイイ文化60年史」で初めて知った「いちごの王さま」。ただし、サンリオ発行の月刊誌「いちご新聞」を子ども時代に定期購読していたいわゆる‟いちごメイト”の友人にとっては、同誌でおなじみのキャラクターとのこと。
いちごの王さまは「いちご新聞」創刊の1975年から毎月、「いちごの王さまからのメッセージ」を寄せており、その一部が展示されていました。
いちごの王さまの約8割は、真っ赤ないちごに緑の葉っぱ、黄色のクラウンをお召しの頭部分が占めます。大きないちごの下の方に素朴なお顔とボディがついたいちごの王さまは、どちらかというと王子の方が合いそうな、あどけない姿。
しかし、展示されていたメッセージには約70年前にいちごの王さまが甲府空襲にあった時の、克明な戦争体験が綴られていました。
「いちごの王さまからのメッセージ」はサンリオの公式サイトからバックナンバーを見られるのですが、毎年8月になると戦争の辛さ・怖さ・不条理さ・無意味さを、絵本のような語り口で、約50年前の子どもたちにも、現代の子どもたちにもそっと寄り添うように伝えています。
いちごの王さま、つまり辻信太郎さんについて調べると、戦後は山梨県庁に努め、退職時に山梨県知事から県政功労者として「酒類販売業免許」を与えられたそうですが、社員に重たい荷物を運ばせるのは自身の信念に反するという理由で返納したそう。
また、「サンリオデザイナー展」ではサンリオ発行の「いちごえほん」で編集長を務めたやなせたかしさんが辻信太郎さんとの交流について記した1ページが紹介されていました。
やなせたかしさん=いねむりおじさんと辻信太郎さん=いちごの王さまの素朴でのんびりなやり取りで、大きな事業が動いていくこと、ひとつの文化が作られていく様子は、サンリオという日本の「KAWAII」を代表する文化を創り上げた辻信太郎さんの人となりがわかるようなエピソードで、とてもすてきです。
辻信太郎さんが創業時から掲げるサンリオ社の企業理念は「スモールギフト・ビッグスマイル」。戦争が終わってから「みんなで仲良くできる」にはどうしたらいいかを考え、小さな可愛いギフトを贈り合う会社を作ったといいます。
「いちごの王さまのメッセージ」の中では、『お誕生日や、親切にしてもらった時に、小さな贈り物にカードを添えて送ることで仲良しの輪が広がり、やがて世界中が仲良くなる、それが世界平和に繋がっていくはず…戦争を体験した王様は、それが1番良い方法だと思うのです。』と述べています。
(いちご新聞2021年8月号より抜粋)
きれいごとかもしれない、でも言い続ければだれかに伝わるかもしれない、ひとりひとりが願い続けることが大事なのかもしれない。
人が人に厳しくなりがちな世界で、いちごの王さまのメッセージはわたしたちに希望を伝え続けています。