想像を掻き立てられる「路地」の世界―—その向こうには何がある?
街中の建物を眺めながら、窓の奥の様子を想像するのが好きだ。
覗き見るのではなく、あくまでも外観からどんな風に使われているのか、そこにどのような物語があるのかを考える。
これは幼いころからの癖のようなもので、長距離の移動や目的地の定まらないドライブであっても、移り変わる風景に想いを馳せればたちまち有意義な時間となった。
しかし、中には車や公共交通機関ではなかなか通りすがれない場所もある。
そのひとつが「路地」や「路地裏」だ。
今まではほぼ同じ意味として捉えてしまっていたが、実は下記のようにそれぞれに違いが存在するという。
- 路地:建物と建物(主に人家)の間の狭い道を指す
- 路地裏:表通りに面していない場所(一般的には、路地から更に入り込んだところ)を指す
ちなみに「裏路地」はより目立ちにくい路地、「裏通り」は表通りの裏側にあたり、建物同士に挟まれているかどうかが大きな違いらしい。
建物が密集した路地や路地裏は、広々と賑やかな表通りとはまた異なる風情を醸し出している。
地元の人々に愛されているのであろうレトロな雰囲気の店舗も多く、外から想像するというよりは「一度入ってみたい」感覚で見る人も少なくないはずだ。
さらに京都の長屋通りのように、統一感とデザイン性に優れた路地などは物件としての人気も高いと聞く。
私も特に一人の時はよく徒歩で移動するため、繁華街の中でひっそりと灯りがともる路地裏や、旅先の温泉街で独特の趣あふれる路地などを見かけると掻き立てられるものがある。
人様の家を空想の対象にするのは憚られるが、そこに息づく歴史や現在の営み、建物から窺えるこだわりなどをイメージしては、過去に読んだ本や自らの体験と繋げてみたり、創作への着想を得たり。
こんなにも興味を惹かれるのは、やはり様々な物件が建ち並ぶ複雑さにあるのだろうか?と調べると、既に1998年の『土地環境デザインセミナー』では、長年まちづくりに携わる西斗志夫氏によって以下のような発表が行われていた。
◆路地の魅力
・空間的狭さ
・路地形状の複雑な曖昧さ
・長い時間をかけて形成された街である(から居心地がよい)
・地形との一体感(地形に馴染むよう展開されているため)
・路地の持つ野性味(平坦ではないからこそ、ワイルドな印象がある)
※参考:路地空間の魅力について-都市環境デザインセミナー 98年第6回記録(http://web.kyoto-inet.or.jp/org/gakugei/judi/semina/s9806/ono001.htm)
氏によれば、形状の複雑さ以外にも車が入れない限られた空間であるからこその安心感や、長い歴史ゆえの居心地のよさ、地形との一体感なども理由ではないか、とのこと。
確かに大通りに比べるとしっとりとした静けさを感じる路地裏は、歩く者にとって親しみを覚えやすいのかもしれない。
表通りにも裏通りにも、それぞれの形と魅力がある。
ふと入ってみた道で新鮮な驚きを感じるたび、これからもきっとその向こうにある世界を胸に描いてしまうのだろうな、と思う。
【ところで、海外の路地も気になりませんか?】
話がやや脱線するので割愛した余談。
前述した参考ページには「アメリカはそもそも路地自体がほぼない等、文化の在り方とも関係してくる」といった記述も見られた。
そうなるとやはり、気になるのが海外の路地裏事情ではないだろうか。
というわけで、とにかく色んな国の路地や路地裏が見たい!なおかつ筆者と同じく合法的に想像を膨らませたい!という方におすすめなのがパイ インターナショナル編著の『世界の路地』である。
こちらはヨーロッパから身近なアジアまで、世界中にある路地の写真がコンパクトにまとめられた一冊。
もはや芸術作品では? と唸ってしまうファンタジックな風景や、どこかその土地の生活感が漂うノスタルジックな空気が閉じ込められていて、かつ簡単な解説も入っているので非常に分かりやすい。
しかも紹介文に「いくつもの物語を夢想させる」というフレーズがあり、妄想癖にも優しい仕様である。
単純に写真集としても美しいので、興味がわいた方はぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
パイ インターナショナル編著『世界の路地』(2016/09/17初版発行・パイ インターナショナル)