歩いてわたる明石海峡大橋
○○のかけ橋 —— ○○には明るく前向きな言葉がならぶことから分かるとおり、橋は、我々の生活やメンタリティに非常にポジティブな意味を与えている。本州・神戸と淡路島、ひいては四国四県との交通を支える明石海峡大橋もまた、激しい潮流に翻弄され、命がけの海上輸送に苦しんだ戦後の関西圏の悲願であった。開通当時(98年4月)は世界一の最大支間長(注)を誇り、橋長約4㎞におよぶ長大なつり橋の管理者専用路を歩いてわたる企画に、満を持して参加した。
注:高位置から橋桁と鋼線のケーブルを支える主塔と主塔の間の最大長。つり橋の架橋技術を象徴する。22年、30m差でトルコ「チャナッカレ915橋」に首位の座をゆずった。
本州・神戸側のアンカレイジ(メインケーブルの両端を固定するため地面を掘削して設置されるコンクリート)内部をエレベーターで上がり、一般観光者の順路をそれて鉄格子のドアを開き、細長い階段をおりて専用路が始まる。鋼鉄の橋梁の透き間から吹きつける強い横風と、橋の最上部に位置する本州四国連絡高速道路を行き交う自動車の振動が、心臓にダイレクトに伝わってくる。
高さ300mにおよぶ2本の主塔に接近して視線を下に落とすと、海中の基礎からそびえ立つ重厚な柱の遠近と白波の騒ぐ水面に、思わず足がすくむ。ガイドさんの説明は、建築・土木の知識の乏しい私にはうっすらとしか理解できないのだが、耐用年数200年を前提としたこの巨大な構造物が、無数の機構と創意工夫がおり成す精密機械であることを痛感した。
建設途中、阪神淡路大震災に見舞われながらも地盤のズレに耐え、素早い再測量と軌道修正の末、完工させた技術力の高さと関係者の団結力には、ひたすら頭が下がる。何事も無く淡路島まで歩かせてもらった後、参加記念として、フルネーム入りの「完歩証明書」が参加者に手渡される。一歩一歩踏みしめて歩いただけに、帰路のバスがものの5分でかつての難所を走りぬけ、易々と神戸側に行き着いてしまう「当たり前」に驚愕した。
毎夜、ケーブルに設置されたイルミネーションが、一年を通じて多種多彩に夜空を照らすことでも知られる明石海峡。建設当時の感動と期待に思いをはせながら、島国日本を代表する「かけ橋」に、ぜひ徒歩で挑んでみてください。
イベントの詳細はこちら:https://tanosu.com/trip/44245/