2024.07.29
「普通の生活」と「無関心」の裏にあるもの -映画『関心領域』-
東京
ライター
来た、見た、行った!
かつら ひさこ氏
ひとりで観に行く映画は、心にずっしり響くものを選ぶ傾向にあるが、今年、忘れられない1本になりそうな映画が『関心領域』という映画。
アウシュヴィッツ強制収容所の隣に住むある家族の話だ。
ホロコースト映画とはいえ、残虐なシーンは一切ない。主人公はユダヤ人虐殺の指揮をとる収容所所長だが、家族とピクニックを楽しみ、食事をし、子供たちに本を読み、寝室で妻と語り合う。
家族を愛する「普通」の男の生活。
美しい花で彩られた邸宅での生活の中、空に流れてくる煙、時たま聞こえる銃声や叫び声、子供たちと川遊びの最中、突如川を濁らせる白いもの、庭に運ばれてくる灰、なぜか泣き続ける赤ちゃん…と言った様々な不協和音が、観ている者の心をひっかく。
そんな中、仕事に邁進した主人公がアウシュヴィッツから異動になるが、妻のヘートヴィッヒは美しい邸宅から出ることに激しく抵抗する。
結果、夫は単身赴任となり妻と子供はそのまま邸宅に住み続けることになるのだが、自分の生活にしか興味を示さず、家に固執する妻に共感してしまう自分に気づき、心底ゾッとした。
そして、本編を通じて印象的なシーンとなっている、サーモグラフィーで描かれた謎の女の子。
何も知識がないまま観た時は「彼女は何をやっているのか?」と思ったのだが、彼女の行動の背景を知った時、監督が描きたかったものが入ってきた。
この時代の知識はある程度知っていた方がより深く物語に入り込めると思うが、何も知識を持たずに観て、あとで背景を調べてみるのもよいと思う。
筆者は視聴後、本編の登場人物たちの「後日談」を調べてみたのだが、こちらも興味深かった。
興味のある方はぜひ観てみては。
映画『関心領域 The Zone of Interest』オフィシャルサイト
プロフィール
ライター
かつら ひさこ氏
1975年札幌市生まれ。自分が思い描いていた予定より随分早めの結婚、出産、育児を経て、ライティングを中心とした仕事を始める。毒にも薬にもならない読みやすい文章を書くことがモットー。趣味はクイズ、お茶を飲みながらぼんやりすること。