あらゆる欲望と矛盾の集積地、時代露わな歌舞伎町に大きな注目集まる

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

※メインビジュアル:舞台「ふくすけ2024 ―歌舞伎町黙示録―」の一場面(撮影:細野晋司)

歌舞伎町と聞いて何を思い浮かべるだろうか。日本一にして東洋最大の繁華街。そしてあらゆる欲望と矛盾の集積地。良いことも悪いことも過剰なほどこの町に押し寄せ、現代という時代を露わにする。クリエイターたちがどうしようもなくこの町に惹き付けられるのも無理はないなのである。

戦後の土地整備で生まれた新宿駅近くの空間に誕生したこの町は、歌舞伎の演舞場の建設が構想されていたため「歌舞伎町」と名付けられたが計画は頓挫し、劇場、映画館などが次々と建設されて、娯楽産業を核としたレジャーランド化が進んだ。全国から人が集まってくる町となり、飲食店や風俗店が増え、反社会的勢力も定着。抗争事件やぼったくり店の横行で危険な町の側面も出てきた。

こうしたイメージが歌舞伎町を取り巻くようになった1991年、俳優で劇作家・演出家の松尾スズキが、主宰する大人計画とは別に立ち上げたプロデュース集団「悪人会議」のプロデュース作品として書き下ろしたのが今も名作の誉れ高い「ふくすけ」。猥雑ながらも魅力的な歌舞伎町を舞台に異端の者同士が勢力争いを繰り広げる一大絵巻は、強烈な個性を持った登場人物とともに大きな話題となった。

1998年には松尾が「日本総合悲劇協会」の公演として再演し、2012年にはシアターコクーンで再々演。この夏、阿部サダヲ、黒木華、秋山菜津子、岸井ゆきの、松本穂香、松尾スズキを中心としたキャスト編成でBunkamuraシアターコクーンの公演「ふくすけ2024 ―歌舞伎町黙示録―」として東京など(東京、京都、福岡)で再演されている。

例えば歌舞伎町を徹底して荒廃したディストピア(反理想郷)として描き、悪行の数々を綺羅星のごとく描くことはできるだろう。しかし松尾はそこにうごめく人々が突き動かされている衝動や欲望のベクトルを重視し、生きるための行動の結果として描いている。世間にどれだけ悪く言われようと、彼らは生きているのだ。

もちろん、搾取や洗脳といった危うすぎる悪行も見え隠れし、歌舞伎町はひときわダークに描かれている。

行政や警察によって浄化作戦が実施された2000ゼロ年代、町は一定の落ち着きを取り戻し、2010年代から現代にかけて新しく開設された健全な映画館や劇場などが広範な層の人々を呼び込んだ。しかし一方で全国の「居場所のない」少年少女たちも呼び込むことになる。一部のホストクラブのホストたちは未成年まで借金苦に追い込み、無気力な少女たちは広場で男たちの毒牙にさらされている。

「ふくすけ」はこれまでも上演される時点での歌舞伎町の移り変わりを取り込んで生き物のように新たな生命力を獲得してきた。今回もこうした大きな変化の時代に上演される意義は大きい。

くしくも放送中の夏ドラマでは歌舞伎町のまさに今を描いたフジテレビ系の「新宿野戦病院」(毎週水曜22時~)が話題だ。 元米軍軍医から美容皮膚科医までいるユニークな歌舞伎町の病院を舞台に、日々持ち込まれる厄介事や運び込まれるワケありの患者に奮闘する医師たちをややコミカルに描いている。

だが、歌舞伎町にさまよいこむ少女たちのDVや虐待の被害、未成年たちを救おうと活動するNPOの姿など、歌舞伎町の闇や暗部、新しい未来とも真正面から向き合う真摯な姿勢が高く評価されている。 歌舞伎町は諸刃の剣だ。現代性やエッジのきいた題材にばかり引きずられてクリエイターが安易に手を出すと、しっぺ返しにあいかねない。そこから聞こえる声に耳を傾け、何を選び取って観客や視聴者に伝えるべきなのか、絶え間なく考え続けなくてはならない。 舞台「ふくすけ2024 ―歌舞伎町黙示録―」は2024年7月9日~8月4日に東京・新宿歌舞伎町のTHEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6階)で、8月9~15日に京都市のロームシアター京都メインホールで、8月23~26日に福岡市のキャナルシティ劇場で上演される。

 

 舞台「ふくすけ2024 ―歌舞伎町黙示録―」
公演日 会場:
7/9(火)~8/4(日) 東京・THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
8/9(金)~8/15(木) 京都・ロームシアター京都 メインホール
8/23(金)~8/26(月) 福岡・キャナルシティ劇場
出演者:阿部サダヲ、黒木 華、荒川良々、岸井ゆきの、皆川猿時、松本穂香 ほか
ミュージシャン:山中信人(三味線)
作・演出:松尾スズキ
音楽:国広和毅
チーフ・プロデューサー:森田智子
エグゼクティブ・プロデューサー:加藤真規

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
阪 清和
共同通信社で記者として従事した30年のうち約18年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。2014年にエンタメ批評家・インタビュアー、ライターとして独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞・テレビ・ラジオなどで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅・メディア戦略・広報戦略に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。雑誌・新聞などの出版物でのコメンタリーやミュージカルなどエンタメ全般に関するテレビなどでのコメント出演、パンフ編集、大手メディアの番組データベース構築支援、公式ガイドブック編集、メディア向けリリース執筆、イベント司会、作品審査・優秀作品選出も手掛け、一般企業のプレスリリース執筆や顧客インタビュー、メディア戦略・広報戦略コンサルティングや文章コンサルティングも。活動拠点は東京・代官山。Facebookページはフォロワー1万人。noteでは「先週最も多く読まれた記事」に25回、「先月最も多く読まれた記事」に4回選出。ほぼ毎日数回更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/)。noteの専用ページ「阪 清和 note」は(https://note.com/sevenhearts)

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP