金沢の8寺院を会場にアート展「オテラート金澤2024 夢か現か」 

金沢
ライター
いんぎらぁと 手仕事のまちから
しお

金沢の秋の風物詩「オテラート金澤」は今年で14回目となるアートイベントです。

お寺とアートをかけあわせた「オテラート」というイベント名のとおり、金沢市内の寺院が会場となり、伝統工芸から現代美術まで、プロの画家から会社員や学生など幅広い参加者がテーマにあわせた作品を展示します。

古来より人々に開かれた場所であるお寺で、経験や職業、はたまた国籍すら関係なく、自由に芸術を表現できる。そして誰でも気軽にお寺に足を運び、アートを楽しめる。金沢市民として、誇りに感じるイベントのひとつです。

さて、今年のオテラート金澤のテーマは「夢か現か(ゆめかうつつか)」。

夢には様々な意味があります。寝ている間に見る夢、目標としての夢、「うっそ!夢みたい♡」という夢心地に「夢ならいいのに…」という現実逃避などなど。現(うつつ)も現世や現身、現実、現在、現存、現象など、今この瞬間のリアルからあの世とこの世的な対比まで色々あります。

今回は金沢市内8つの寺院で作家やアーティストそれぞれの「夢か現か」が作品展示やパフォーマンス、ワークショップや体験などを通じて表現されました。

わたしが訪れた4つのお寺で出会った、多様な「夢か現か」をちょっぴりですが紹介しましょう。

-興徳寺(金沢市寺町5-12-16)

興徳寺では6組の作家さんやグループが作品を展示していました。

昨年のオテラート金澤でも取材した木彫刻の齊藤美智代さんと娘の愛花音さんは、今年も仲良くそれぞれ作品を出展しています。

齊藤美智代さんは金沢仏壇の職人としてその技能を存分に発揮した「不思議な柘榴(ザクロ)」を、お寺の柱を使ってダイナミックに披露しました。

鬼子母神像が祀られている興徳寺にインスピレーションを受け、鬼子母神とゆかりの深い柘榴をモチーフに制作したそう。

奥に飾られた愛花音さんの「夢を現に」は、小学校の先生になりたいという夢を現にするべく励む大学で勉強する自身の姿をアクリル絵の具や刺しゅうで表現しています。

また、金城大学短期大学部美術学科としてグループ出展した祖父江彩天奈さんが制作した「友人」もユニークです。

「人間関係が豊かに広がる」ことを暗示するアルマジロの夢からイメージし、SNSなどで顔の見えない相手と簡単に友達になれることに対する不気味さを、石粉粘土やスタイロフォームで作ったアルマジロ怪人に込めました。

個人的に楽しかったのが写真展グループ「イチゴカメラ」さんの「夢現キャンバス」です。

用意された真っ白なキャンバスに、14人のカメラマンがそれぞれ撮影した「夢」と「現」の組み合わせから自由に選んではめ込みます。

図録を見ずに自分の中でストーリーを立てて選んでいく作業が面白く、わたしはムラカミマサユキさんの車で楽しそうに話す姉妹を「夢」に、ユキゴマさんが1人でわたあめを食べる少女を撮った写真を「現」に設置してみました。
(妹が欲しいな!一緒にお出かけするんだ♪という少女の夢と、だけどほんとは一人っ子なの…ぐすん…という現実の対比なのです)

写真を見て感じることやイメージは人それぞれ歩んできた経験や感覚、性格に左右されるので、組み合わせや思いつくストーリーもきっと多種多様で、非常に面白い企画だと感じました。

-長久寺(金沢市寺町5-2-20)

長久寺では昨年度のオテラート金澤で来場者の投票で選ばれる「大賞」に輝いた倉林雅幸さんが、新作を展示していました。
倉林雅幸さんの昨年度の作品はこちら

今回の油絵と映像作品を重ねた「人魂蝶夢」は、プロジェクターから放つ蝶や木漏れ日の光で目の前の景色が現実なのか、はたまた夢か幻か…観る人に問いかけます。

また、画家の高明輝さんは自作の絵本「あさごはんかい」の原画を内陣の前に並べました。

高さんにとって長年の夢だった「絵本を描く」ということ。オテラート金澤への出展を機に現実となったとのことです。アクリル絵の具を使った温かみのある絵と1人の女の子が動物たちと織りなすストーリーが素敵な原画たちでした。

長久寺では毎年来場する子どもたちが楽しみにしているという、ておえむくさんの作品でも遊べます。Pペーパーという粘着性がないのにくっつく紙に描かれた、現実にいそうでいない動物たちが優しい気持ちにさせてくれます。

-常松寺(金沢市野町1-3-8)

常松寺では寺内の襖に作品が直接描かれているのが特徴的です。

中央の襖絵は過去のオテラート金澤で作家さんが制作したもので、今回は左手の襖に会社員のTomonori Kitagawaさんが水墨画「建速須佐之男命(タケハヤスサノオノミコト)」を描きました。

1月の能登半島地震被災後の光景を目にしたTomonori Kitagawaさんは、悪い意味で夢か現かわからないその景色を元に戻すべく闘うボランティアの姿に、厄災をなぎ払う「建速須佐之男命」を感じたそう。復興への願いと祈りを込めて、作品を制作しました。

襖絵が飾られた和室の奥には、暗い部屋に浮かび上がるようにZZYMAさんの「夢か現」が横たわっています。

また、衣装作家のTESSEYさんは纏う彫刻として「EMON#05 『KOKI』」を御本尊の横に展示しました。

美しい透け感を持ちながら、なんだか不気味なその様相は不思議な魅力があります。

-崇禅寺(金沢市瓢箪町5-43)

崇禅寺では9月21日に沼田さちえさんと武田恭輔さんの音楽ユニット「pommez」がパーカッショニストの上坂朋佑さんとコラボして演奏会を開催しました。

演奏会の中盤では、崇禅寺の三香美晋道住職とのセッションも!

三香美住職が太鼓や鏧子(けいす)を叩きながら唱える般若心経に、武田さんがかき鳴らす歪んだギターと上坂さんのパーカッションがスパイスとなり、混沌としたサウンドが蝋燭の明かりに照らされた本堂に鳴り響きました。

パフォーマンス後は集まったお客さんから大きな拍手が上がり、またとない素晴らしい経験となりました。

9月21日に始まったオテラート金澤2024は、29日に無事閉幕。普段はちょっぴり敷居が高いお寺もこの時期は気軽にお邪魔できる夢のようなイベントですが、今年も出会えた数々の素敵な作品や体験は間違いなく現でした。


オテラート金澤2024

会期:2024年9月21日(土)ー29日(日)
時間:13時~18時(最終日は17時まで)
※現在は終了

[小立野地区]
天徳院(金沢市小立野4-4-4-)
くるりん ぱ あきよ/森本梓円/fairy yumin/芸宿/市田朱里/守山実季/鳥羽慶美/川村拓路

[寺町地区]
長久寺(金沢市寺町5-2-20)
BeBe/ておえむく/熊谷百花/三ツ田光里/前田百合香/大塚光子/髙明輝/つな/倉林雅幸
興徳寺(金沢市寺町5-12-16)
イチゴカメラ/椿井/巳雲/斉藤美智代/斉藤愛花音/金城大学短期大学部美術学科
常松寺(金沢市野町1-3-8)
紅乃谷安那/TESSEY/田中美路/雀由依子/haru/正水瞳/Tomonori Kitagawa/あおいろ/ZZYMA

[東山地区]
浄光寺(金沢市森山2-19-32)
芝山佳範/木下富雄/出村禮子/カガ ユウジ/下橋翔/KAORI/ヤマシロタクヤ/平村美和/瀬川親子​
[浅野川地区]
崇禅寺(金沢市瓢箪町5-43)
ゆか氏/あきを/yoshiteru/灘ふい/marinco/岩田惇平/Hiro yamashina/なつ
聞善寺(金沢市瓢箪町5-33)
大橋明日香/山口実華/岡野李音/小坂素石/上出梨央/amu/玲/Wada Motoki
廣誓寺(金沢市昌永町1-3-25)
太田魁/髙津芽生/Yu Sukeda/住田薫/髙辻あい/リサテラダ/Sgatch/宮崎匠

プロフィール
ライター
しお
ブランニュー古都。 ふるくてあたらしいが混在する金沢に生まれ育ち、最近ますますこの街が好きです。 タウン情報サイトの記者やインターネット回線・VODなどの記事を執筆しながら見つけたもの、感じたことをレポートします。 てんとうむししゃ代表。

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