「藍の約束」がYouTubeで公開中!圧倒的クオリティのインディーアニメ、その制作秘話に迫る
日本だけでなく、世界でも大いに盛り上がりを見せるアニメ業界。その市場規模は3兆円に推移し、日本のアニメ制作市場だけ見ても、2024年には3000億円を突破することが予想されている(※帝国データバンク調べ)。アニメの視聴方法や制作手法も多様な広がりを見せる中、2020年からファンの間で話題になっているのが「インディーアニメ」の存在だ。
今回はそんなインディーアニメの中でも、2024年9月21日に配信された自主制作アニメ「藍の約束」にクローズアップ。クラウドファンディングは114%を達成し、公開前から多くのファンに注目された本作より、制作を手掛けた「スタジオ春となり」にて「藍の約束」の監督を務める新渡つもりさん、プロデューサーのTIMTOMさんに、制作秘話とアニメ業界に入るきっかけ、アニメ業界を志すクリエイターたちへのメッセージを聞いた。
約1年の時を経て配信となった「藍の約束」。背景/音楽/キャラクター…散りばめられたこだわりの数々
スタジオ春となりがリリースした「藍の約束」は、公開から1か月で再生回数は6万超え、16分という時間の中で、作画/音楽/声優/脚本…そのどれもがハイレベルな作品となっている。
劇中楽曲には、TVアニメ「僕の心のヤバイやつ」EDを担当した・こはならむと、SNS総フォロワー280万人を超えるアーティスト・MINAが担当。声優には「ゆるキャン△」「けいおん!」などでも知られる豊崎愛生、「この素晴らしい世界に祝福を!」「七つの大罪」にも出演した雨宮天という豪華キャストを迎え、“商業を超えるクオリティのアニメを作り上げる”という思いを胸に、監督の新渡つもりさん、プロデューサーのTIMTOMさんにより発起されたプロジェクトになっている。
「2023年の7月に4枚のイラストを描き、30秒にも満たないPVを作ったことがプロジェクト発足のきっかけでした。その時はシナリオも何も決まっておらず、日常とファンタジーというテーマだけが決まっていました。最初は10分くらいの尺を予定していたのですが、こだわり始めたら10分じゃ足りなくなってしまって(笑)。正月明けにコンテを描き終わり、1月頭から9月にかけて本制作に移りました」(監督・新渡つもりさん※以下、新渡つもり)
「制作に参加しているメンバーは業界で活躍するクリエイターから、アニメ業界を志す学生まで様々です。およそ1年間の制作期間でしたが、それぞれ仕事や学業など個々の生活があるので、チームのモチベーションの維持にかなり気を遣いました」(プロデューサー・TIMTOMさん※以下、TIMTOM)
制作規模が大きくなるほどコミュニケーション部分では多くの障壁が生じ、なおかつ参加する個々のメンバーには、時間の制約がある。商業クオリティのアニメを作り、なおかつたくさんの人々に物語を届ける…。という一つの目標に皆が向かえるよう、新渡つもり監督、プロデューサーのTIMTOMさんを中心に、メンバーフォローなど密なコミュニケーションに努めたという。
多くの人たちの思いを乗せ、9月21日に配信開始となった本作。個人制作の枠を超えたハイクオリティなアニメだが、どのような部分にこだわりがあるのか。
「自分はプロデュースに加え、作中の音楽も担当しています。企画と脚本が決まった段階で楽曲デモの制作を行い、新渡監督に渡したのですが、そこから映像と音楽をぶつけながらラストのシーンを作り上げていくんです。通常の商業アニメの場合、曲と映像の最適解を見つけていくような作り方には限界があると考えています。今回は私自身がプロデューサーとして中枢にいることもあり、企画段階からお互いに描きたいものを共通認識できたので、音楽にも存分にこだわれました。この座組みでしか実現できなかったシーンになったかと思います」(TIMTOM)
「今回自分が特にこだわった点は色彩ですね。作りたい世界、画面を表現するためには色のコントロールがかなり重要だと認識してます。この作品はシーンごとの色替えを計30色以上作っていて、同じシーンでもカメラからの距離などで細かく色を調整しています。正直途中でやめとけばよかったと思うくらいの作業量でした(笑)。その分、映像表現は自分がやりたいことをある程度表現できたと感じています」(新渡つもり)
異世界を思わせるような幻想的かつビビットな色彩、キャラの表情、食材や背景、扉を開く手の所作ひとつとっても、新渡監督のこだわりが細部に散りばめられている。そして、ラストシーンで描かれる決意、別れ、はたまた出発とも捉えることのできる演出は、TIMTOM氏が手掛けた楽曲により最高の盛り上がりと感動を与える。
YouTubeでは「自主制作なのにプロすぎる…」「音楽も映像も最高です!」「ギュッと胸が締め付けられた…!」といったコメントが数多く並び、商業アニメにも全く引けを取らないクオリティに視聴者も歓喜した。
SNSを中心に大流行!「インディーアニメ」とは?
「藍の約束」のように、個人制作、もしくは小規模の団体で作られたアニメーションを総じて「インディーアニメ」と呼ぶことが多いが、この言葉は2020年頃からSNSなどを中心に一気に広まり始めた言葉でもある。アーティスト・NEEの楽曲「不革命前夜」のアニメーションを手掛けたこむぎこ2000さんがSNS上で「#indie_anime」のハッシュタグを作ったことを機に、その輪は一気に広がっていくことになる。
〇個人アニメーター:こむぎこ2000さんがMV制作を手掛けた「不革命前夜」(NEE)
現在は、個人アニメ作家がアーティストのMVを担当することも多く、MVを手掛けたクリエイターが話題になることも少なくない。そこから追従するように個人クリエイターに対してのファンも増え続けており、参入障壁の低さも相まってひとつのムーブメントに繋がっていく。
「アニメ制作のフローは商業とインディーでそこまで大きな違いはありませんが、現在はコロナ禍の影響もあり、YouTubeやXなどで誰でも簡単に作品を投稿したり、アニメ制作経験がない方も動画サービスでそのノウハウを知ることができる時代になりました。個人がアニメを制作するハードルは確実に下がってきていると感じています」(新渡つもり)
インディーアニメの魅力としてあげられるのは「自由度の高さ」と「作家性が尊重される」という点だ。
通常、商業アニメの場合は製作委員会方式などの影響もあり、基本的にはクライアントワークとなる。もちろん、予算規模もクオリティも会社が手掛けることで高いレベルになるが、出版社や著作権保有者の意向が重要視される以上、制作における自由度には制限が生じる。
その点、インディーアニメは先に説明したMVアニメーションのように、「〇〇さんにお願いしたい」と、個人作家を指名する形で仕事が進むことが多く、自身が作りたいものを思い切り表現できるというメリットがある。
「アニメMV制作も一見、クライアントワークなのですが、作家性を踏まえて、アーティストサイドから依頼されるケースが多いです。また自主制作でSNSに投稿する際も、視聴者に受け入れられるかはさておき、自分が作りたいものを作れますし、商業アニメでは見られない奇抜な演出や表現など、自分の趣味を自由に表現できます」(TIMTOM)
「藍の約束」キーパーソンが歩んだ、それぞれのキャリア
2人が説明してくれたように、インディーアニメ制作は自由である反面、人員や予算が潤沢でないこともあり、決して簡単な道ではない。もともと細田守監督の「時をかける少女」など、アニメが大好きだったという新渡つもり監督、TIMTOMさんだが、なぜ2人はアニメ制作にかかわるようになったのか。
「もともと自分のオリジナルアニメを作りたいと思っていて、高校卒業後すぐに制作進行としてアニメ会社で働き始めました。ただ、アニメ業界の中でも、オリジナルアニメの監督になれる人は限られています。そこで、会社に4~5年ほど勤めてしっかり経験を積んだ後に、自分の目標を叶えるために独立し、現在は『藍の約束』含め、フリーのアニメ演出家として活動しています」(新渡つもり)
アニメ監督になるステップとしては、制作進行→演出→監督となるのが一般的。だが制作進行は激務が常であり、夢半ばアニメ業界を離れてしまう人も少なくない。新渡監督も新卒で入った会社で13人ほどのプロジェクトで働いていたが、最終的に残ったのは新渡さん含め、3人程度だったという。それでも、自身の夢へとステップアップを続けた新渡監督。辛くとも着実にステップアップしている自分を感じながら、会社員時代は働いていたという。
「もともと自分は、アニメ自体は大好きだったのですが業界で働いたことはなく、今も広告業界で働いています。コロナを機にSNSで自主制作アニメに出合い、“めっちゃ楽しそう!”っ思って。広告業界でのクライアントワークの反動もあったかもしれませんね(笑)」(TIMTOM)
ひと昔前はアニメ業界に入るために、アニメーションに関する専門学校や大学に入り、アニメ制作会社に入社しキャリアアップを図るという形が一般的だったが、MVの音楽制作を行っていたこともあるTIMTOMさんのように自身のスキルを活かし、さまざまな関わり方でアニメに携わる人も多い。インディーアニメというフィールドで、見ている側から発信する側へ転身したTIMTOMさん。自身の武器を生かし、自由に好きなことに携わっている。
目指すは200億円越えの劇場アニメ!「藍の約束」を通じたスタジオ春となりの挑戦
“オリジナル劇場アニメで200億円を超えるヒット作を作る”
これは「藍の約束」監督の新渡つもりさんが掲げる夢であり、すなわち、スタジオ春となりとしての目標のひとつでもある。そのため、新渡つもり監督とTIMTOMプロデューサーたちにとって、「藍の約束」の配信は重要な通過点であり、大きな第1歩となる。
「今後、スタジオ春となりとしても作品自体は増やして、今よりもっともっといい作品を作りたいです。
また今回は16分の尺で制作しましたが、次回はその尺も伸ばしたいですね。16分でこれだけ苦労したので、長編はなおさら大変そうだなって思いますが(笑)。クラウドファンディング、声優さん、アーティストさん、制作チームと本当にたくさんの人たちによって作られた舞台が『藍の約束』なので、まずは一人でも多くの人たちにこの作品を届けていきたいと思います」(新渡つもり/TIMTOM)
最後に、アニメを作りたい読者・アニメ業界を志す読者に向けたメッセージを2人からいただいた。
「僕はアニメ業界の人間じゃなかったけど、大好きなアニメに携わりたい!と思って企画に参加し、仲間も増え、規模も大きくなり、最後までやりきったと達成感もあります。今、アニメに関わりたいと思っているけど悩んでいる方がいたとしても、置かれている環境は関係なく、やりたい気持ちや仲間がいれば、自分のやりたいを実現することは可能です。正攻法ではアニメ業界に入れなくとも、自分の中で“アニメが作りたい”と強く願う原動力があれば、大丈夫です。インディーアニメ業界も、僕らと一緒に盛り上げていきましょう」(TIMTOM)
「ぶっちゃけ言うと、アニメ業界って人手不足なので、案外会社には入れるんですよ(笑)。ただ、続けるのは本当に厳しい世界だし、抱え込むとアニメの楽しさが分からなくなってしまうかもしれない。インディーアニメのように会社に入らずとも自主制作ができる時代なので、“アニメ業界に入る”ことを唯一の目標にしないで、自分がアニメを作りたいと思った理由にしっかり向き合いながら、柔軟にキャリアを積んでほしいです」(新渡つもり)
「藍の約束」
●制作:スタジオ春となり
●主題歌アーティスト:こはならむ(TVアニメ「僕の心のヤバイやつ」のED曲を2期連続担当)
●劇中歌アーティスト:MINA(総フォロワー250万人以上のメジャーアーティスト)
●声優
(少年):豊崎愛生(「けいおん!」平沢唯役、「とある科学の超電磁砲」初春飾利役、「ゆるキャン△」犬山あおい役など)
(先生):雨宮天(「東京喰種」トーカ役、「この素晴らしい世界に祝福を!」アクア役、「彼女、お借りします」水原千鶴役など)
●監督:新渡つもり
●プロデュース・音楽:TIMTOM
●Xアカウント:https://x.com/st_harutonari
YouTubeアカウント:https://www.youtube.com/@st_harutonari
●スタジオ春となりでは現在、長編オリジナルアニメを企画中!一緒に作品作ってくれる仲間を募集しています。
気になる方はSNSアカウントまでご連絡ください。