「第7回コピックアワード 2024」最終審査結果が発表!多くのエントリーから有名クリエイターたちが選んだ作品は…?
2024年9月、東京目黒にて『第7回コピックアワード 2024』の最終審査会が実施された。
『コピックアワード』は、株式会社トゥーマーカープロダクツが販売しているアルコールマーカーをはじめとした「コピック」製品の画像を使用して創作された作品のコンペティションであり、応募者たちに発表の場を提供することで、世界中のコピックファンを作品でつなぎ、コピックでの作画や制作をより楽しいものにすることを目的としている。
〇コピック公式サイト:https://copic.jp/
第7回目となるコピックアワード2024のエントリー作品は、合計で3,639点。日本と世界70ヵ国からの応募があり、5歳から71歳までの応募者から作品が集まった。中でも応募者層は10代が圧倒的に多く、日本や台湾をはじめとした美術系高校や専門学校からのまとまった数の応募が目立つ結果となった。
今年は、漫画家の板垣 巴留さん、画家の落合 翔平さん、イラストレーター中村 佑介さん、デザイナーの根津 孝太さん、東京藝術大学教授でクリエイティブディレクターの箭内 道彦さんの、計5名の審査員により作品への講評が行われる。
最終審査は、事前の審査で選ばれた作品から、1次選考→2次選考→最終選考を当日にすべて行い、「グランプリ」「準グランプリ」「審査員賞」「次世代アーティスト賞グランプリ」などが選ばれる。机に並べられた各作品に審査員が付箋を貼っていくことで次の選考へ進むことになるが、例年に比べてかなり票が分かれる結果に。
各賞は多数決で決まるのではなく、各々が意見を交わしあう。
「事前の審査はWebで作品を見ていたけど、やはり原画を見ると迫力も違う」と語るのは、クリエイティブディレクターの箭内さん。描き手を想像するのが楽しくて愛おしいと、作品への感想を口にしつつ真剣な眼差しで審査を進めていく。
漫画家の板垣さんも「どうしよう…選べない…」と迷いつつも、「他の方の原画を見られるのは本当に貴重。漫画の審査は経験があるけど、こういう審査は初めてです」と感想を語った。
5人の協議により、グランプリ/準グランプリが決定!
そして、審査員5人により選ばれたのは下記の作品。「グランプリ」「準グランプリ」の作品について、各審査員のコメントともに紹介する。
〇グランプリ
作品名:阿嬤的章魚小丸子
作家名:林芊語 CYL
中村 佑介さん:絵を描いていない人が見てもすごいのが一目で伝わる。夜市の風景だろうけど、色がモダンで、あえてピンクを目立たせようとしているのも面白かった。
箭内 道彦さん:写真にも、AIにも表現できないその人にしか見えていない色を表現できている
準グランプリ1
作品名:ズキュン
作品名:紅梅アヤ
落合 翔平さん:漫画の要素が詰まっていて面白い。色遣いも丁寧でも綺麗だし、目の色も引き込まれる感じ
中村 佑介さん:このコンテストが「キャラクターデザインコンテスト」だったら落ちていたかもしれないが、これはコピックだからこそできる、イラストレーションとしてのマンガ的表現になっている
板垣 巴留さん:自分がマンガ家だからこそ、こういうメタ的な表現はどうなんだろうと思ったりしたけれども、人の心を惹きつける作品で、絵そのものに価値がある
準グランプリ2
作品名:クルグル
作家名:囲
根津 孝太さん:個性と熱量が感じられる作品。個性はフェチとも捉えられるが、その2つがしっかり感じられる。色をたくさん使って、ひたすらにぐるぐるを描くその執念を、この1枚から感じた。
落合 翔平さん:なんでかわからないけど、気になってしまう。ぐるぐるだけじゃなく、左下の顔の部分も目に留まったし、否定できない強さのようなものがある。
「自分らしさは探さなくていい」箭内さん、根津さんに聞く、クリエイターへのメッセージ
最後に、今回のコピックアワード2024審査員を務めた、箭内 道彦さんと根津 孝太さんへの取材を実施。コピックアワードの感想や、クリエイターへのメッセージを語ってもらった。
審査お疲れさまでした。率直に感想はいかがでしたか?
箭内 道彦さん:審査員と応募者の幅の広さが面白かったですね。応募者の皆さんそれぞれ、表現方法・技術・熱量とみんな違いますし、審査員の見方も多様でした。だから1次審査で票が割れたとき、すごくワクワクしたんです。みんな良いと思った作品や思い入れも違うので、極端な話、全作品が優勝だと感じています。
また、絵を描くことって本当は誰にでも許された自由だけど、みんないろんな理由や事情で脱落していくんです。誰かに「下手クソ」って言われて挫折したり。そういうことを乗り越えた人たちがこうやって絵を描いていて、この審査の場に応募してきてくれた。世界中の全員が違う絵を描いたら、今よりもっと楽しいだろうなって。そんなことを感じられた審査でした。
根津 孝太さん:私は今回で審査員を務めるのは3回目なのですが、この審査の楽しみの一つは審査員同士のつながりです。箭内さんのことテレビでもよく見てましたし…
箭内 道彦さん:やめてください(笑)。
根津 孝太さん:(笑)。でも、作品に対するいろんな視点を知り、いろんな良さを感じていくと、自分の中にはなかった気づきや目線が受け取れます。結果的に自分も豊かになれるんですよね。そこが審査をするうえで楽しかった部分です。
あとは、最近もちろんデジタルの絵は沢山あるし、それはそれで素晴らしいんですけど、デジタルと原画の受け取る印象の違いを審査員の皆さんも感じていたと思います。やはり原画、アナログが持っているパワーはすごいですね。リアルが持っている面白さがあるんだと感じながら審査してました。
アナログのパワーという言葉が出ましたが、最近では誰でもボタン一つで絵が生成できてしまう時代でもあります。だからこその手描きの魅力についてもう少し教えてもらえますか?
箭内 道彦さん:クオリティもですが、やはり手描きに使ったその人の時間は何にも代えられないですよね。描くときって、すごくワクワクしながら描いたり、悩んだり、いろんなことを考えながら描くと思うんです。その時間を作者が体験できたということに大きな意味があります。
それはもう、AIと向き合う…というものとは全く違うというか、張り合うものでもないしAIには不可能だと思います。絵は作者と見る側の両方に自由があって、何か1つの正解にたどり着くためのものではないんだっていう。
根津 孝太さん:箭内さんと似ている意見ですが、AIって良くも悪くもすぐに絵が出てくるんですよね。そこには対話がないんです。でもアナログは、たとえば女の子の絵を描くときも、絵や自分と対話して感じて、というやり取りがあり、他者からのフィードバックを基にまた別のアクションを起こすじゃないですか。その時間こそが価値なので、一瞬であたかも正解のような絵ができてしまうAIとは、また違う価値がある。両者は対極だと思います。
ありがとうございます。審査する上ではどんな点を重視していましたか?
根津 孝太さん:自分は毎年一緒なんですけど、個性と熱量です。それから個性は、先ほど講評コメントでも言ったようにフェチとも言い替えられます。その人がやりたいことやこだわりと、それに込めた熱量の矢印はどんな方向に向いていて、どっちが長いのか?そんな視点で作品を見ていました。
また、さっきの審査の感想のお話と被るのですが、箭内さん、板垣さん、中村さん、落合さんの視点が新鮮で、自分が作品を見た時は気づかなかったことを教えてもらういました。
箭内 道彦さん:今の根津さんの話でわかったのは、やっぱコメントは先に言っておきたいですね(笑)。「全く以て同感です」と思っちゃいましたから(笑)。
自分の場合、「誰が描いたんだろう?どうやって描いたんだろう?」と想像しながら見るようにしていました。それが当たっても外れても問題ないんですが、そういうことを想像させてしまう作品だらけでした。それはきっと、みんなの中にある“自分”がダダ漏れしちゃってるからだと思います。
根津 孝太さん:それこそあのグランプリ作品も、自分がダダ漏れだったんでしょうね。
箭内 道彦さん:確かに。自分の感性をあえてダダ漏れするように狙ったのか、若さゆえのみずみずしい感性が作品をそうさせたのかはわかりません。でもそれはどちらでも良いんですよね。
根津 孝太さん:グランプリ作品に対して箭内さんが「昔は写真を基に描くと怒られたけど、今は全然いいんだ」ってコメントしていたとき、自分の中の曇りがひとつ晴れた気がしました。描くときに自分の中で疑問に思っていた部分だったんですけど、この場に来たことで自分の目が変われたと感じるし、ありがたいですね。
箭内 道彦さん:僕も今回引き受けてよかったです。正直最初は審査にあたり、「アカデミックなこと言わないといけないのかなあ…」という不安もあったんですよ。でも今日、根津さんの赤い髪の毛を見て、その自由さに解放されたというか。全然気負わずに楽しめました(笑)。
最後に、クリエイターを志す読者に一言お願いします。
根津 孝太さん:もう、やりたいようにやってくださいっていうのが1番です。最近は世の中の情報があまりに多くて、先に知っちゃうと萎縮して踏み出せないこともあるかもしれないんですが、全然気にせずのびのびやりたいことをやってほしいです。
こういう素晴らしい大先輩(箭内さん)もいますし、やりたいことも生き方も、自由にやった結果たどり着ける場所はあると思うので。
箭内 道彦さん:個人的には、「クリエイターか、クリエイターじゃないか」みたいな線引きはあまり好きじゃなくて、言うなれば全員がクリエイターだと思います。それに、「あなたにしかないクリエイティブ」はすごく特別だと思うけど、だからと言って無理やり個性を掘り起こそうとすると何が何だか分からなくなると思うんですよね。
だから、「何をやってもどうせ自分になっちゃう」ぐらいに思った方が、いろんなことに惑わされたり自分を不自由にすることがないと思う。それと同時に、自分が特別だということ、自分だけが特別じゃないってことも忘れないでほしいと思います。
根津 孝太さん:「何をやっても自分になっちゃう」って超名言ですね。刺さりました。絵を描く人の中で挫折してしまう人もいると思うんですが、そういう部分とも繋がりますよね。自分らしさは、あまり突き詰めすぎない方がいいですね。
箭内 道彦さん:だと思います。自分らしさとはとか言い出すと苦しくなっちゃうと思うので。
■審査員プロフィール(※左から敬称略)
・クリエイティブディレクター/東京藝術大学教授:箭内 道彦
東京藝術大学美術学部デザイン科卒業後、博報堂を経て、風とロックを設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」等、数々の話題の広告キャンペーンを手掛ける。福島県クリエイティブディレクター、東京藝術大学学長特命・美術学部デザイン科教授、2011年NHK紅白歌合戦出場のロックバンド猪苗代湖ズのギタリストでもある。
・デザイナー:根津 孝太
トヨタ自動車を経て2005年znug design 設立。電動バイクzecOO、家族型ロボットLOVOT、トヨタコンセプトカー、サーモス携帯マグなどの開発を手がける。グッドデザイン金賞他多数 受賞。2014~2024年度グッドデザイン賞 審査委員。 著書『アイデアは敵の中にある』『カーデザインは未来を描く』。
・漫画家:板垣 巴留
2016年、『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)にて読み切り連作「BEAST COMPLEX(ビーストコンプレックス)」で漫画家デビュー。その後、初連載『BEASTARS(ビースターズ)』が話題を呼び、文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞や第11回マンガ大賞大賞、手塚治虫文化賞新生賞など多数受賞。アニメ化もされた。現在、『週刊少年チャンピオン』にて『SANDA(サンダ)』連載中。
・イラストレーター:中村 佑介
大阪芸術大学デザイン学科卒業。
ASIAN KUNG-FU GENERATION、さだまさしなどのCDジャケット、『夜は短し歩けよ乙女』『謎解きはディナーのあとで』、音楽の教科書などの書籍カバー、浅田飴、ロッテのチョコパイなどのパッケージのほか、数多く手掛ける。 ほかにもアニメのキャラクターデザイン、ラジオ制作、エッセイ執筆など表現は多岐にわたる。
・画家:落合 翔平
多摩美術大学生産デザイン学科 プロダクト専攻を卒業後、2018年から画家として活動を始める。
ダイナミックで予想不能な形状や立体感、力強い筆圧で描かれた線画が特徴。ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)が主催するデジタルオークションハウス「JOOPITER」に作品を提供するなど、国内外で活動の幅を広げている。
■コピックアワード2024(https://copicaward.com/ja/)