世界初演「ケイン&アベル」など超話題作が続々上演、2025年のミュージカル

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

ミュージカル作品の審査にかれこれ15年ほど関わっているが、毎年この時期になると、その年1年のミュージカル界の動きを振り返るとともに、次の年にどんな作品が観られるかが大いに気になってしょうがなくなる。来年2025年は、日本のミュージカルを草創期から支えてきた東京・丸の内の帝国劇場が3代目への建て替えのため数年間の休館に入るため、ミュージカル界は大きな節目の年となるが、話題沸騰の作品の多くが日本初演や世界初演を迎え、初演で高い評価を受けた作品が堂々たる再演で帰ってくるケースも相次ぐ。加えて再演が待ち焦がれていた人気作も続々上演される。来年はミュージカル鑑賞を始めたり、ミュージカルへの熱い思いをあらためて深めたりするのに最適な年かもしれない。

今最も注目されているのが、2025年1月22日に開幕する、英国の小説家ジェフリー・アーチャーのベストセラー「ケインとアベル」を原作にしたミュージカル「ケイン&アベル」。同じ日にポーランドと米国・ボストンで生まれた2人の男性の人生を、20世紀の現代史を背景にしながら双方の視点で交互に描き、やがて運命が交錯していくストーリー。

ボストンで銀行員の息子として生まれたウィリアム・ケインはやがて米国有数の銀行の頭取に。弾圧に追われ移民となって米国に渡ったヴワデグ(のちのアベル)はホテルチェーン経営者のもとで頭角を現し、ある出来事によって、2人の人生が衝突する。

1979年の小説で「現代の古典」とさえ言われている世界的な傑作を彩るのが、話題作への起用が続き今を時めく松下洸平と、ミュージカル界の期待の星、松下優也。2019~20年のNHKテレビ小説(朝ドラ「スカーレット」)でのブレーク以前から舞台作品で演技を磨いてきた洸平と、情熱を秘めた演技に定評がある優也のW松下が、日本のミュージカルファンにはなじみ深い音楽のフランク・ワイルドホーンを中心として演出・脚本のダニエル・ゴールドスタイン(「ザ・ミュージック・マン」)や編曲のジェイソン・ハウランド、振付のジェニファー・ウェーバーら世界的才能に磨き上げられながら、歴史的世界初演に挑むことになる。あの宿命の物語はきっと音楽で表現されても映えるはずで、シンガー・ソングライターでもある松下洸平の歌にも注目だ。

4月9日から始まる劇団四季の日本初演ミュージカル「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に期待を抱かない人はいないだろう。1985年公開の同名映画シリーズの第1作を基に2020年以来、英国、米国で上演。英語圏以外で初めての公演が日本で実現したのだ。

映画版のボブ・ゲイル(監督との共同脚本)がミュージカルの脚本も手掛け、少年マーティと変わり者博士のドクが未来に行くはずが過去に行ってしまうタイムトラベルの顛末を描く。

ミュージカルになってひとつだけ心配になるのが、タイムマシンである「デロリアン」の表現。オリジナルチームは「映像、照明、音響などを駆使して疾走感を感じさせる」と舞台表現に自信を見せるが、実際の舞台を観た劇団四季の関係者も「間違いなく満足いただける確信がある」と力強く語る。

王道のミュージカルが好き、という方にはきちんと大作が用意されている。「オリバー・ツイスト」などで知られるチャールズ・ディケンズの不朽の名作をもとにしたミュージカル「二都物語」が5月から開幕するのだ。18世紀の英仏で展開する壮大なロマンスを、日本ミュージカル界を引っ張る井上芳雄と浦井健治が、宝塚歌劇団宙組トップ娘役だった潤花をヒロインに、橋本さとし、福井晶一、岡幸二郎、未来優希、福井喜一らミュージカル公演に欠かせない面々と華麗に織り上げる。2013年の帝劇初演以来の再演だが、帝劇の休館中の代替劇場のひとつとして位置づけられる明治座での公演が実現した。

日本が舞台の作品も黙っていない。NHKでのドラマ版に出演した山崎育三郎が、いつかミュージカルにと自ら動いてミュージカル仲間の古川雄大、明日海りおとの共演と、巨匠、小池修一郎の演出を実現させて上演が決定したのが2月28日から始まる漫画が原作の「昭和元禄落語心中」。

昭和初期の落語界の世界に入った菊比古(古川)が、同期入門の天才・初太郎(山崎)と切磋琢磨し、固い友情で結ばれる。芸者・みよ吉(明日海)にも支えられた日々が描かれていく。ミュージカルでも同役をWキャストで務めることが多く、まさに切磋琢磨の状態にある山崎と古川が和ものミュージカルの中で、菊比古と初太郎のビビッドな関係性をどう表現するかが見ものだ。

小椋佳のオリジナルミュージカルでデビューしたという山崎が、「日本発のオリジナルミュージカルの創作」を目指して立ち上がった挑戦をミュージカルファンは絶対的に支持していくことだろう。来年はきっとミュージカル豊作の年なのだろう。

この他、初演で高い評価を受けた作品が待望の再演を迎えるのも今年の特徴。

コロナ禍の中止を乗り越えて2022年に上演した「四月は君の嘘」は人気漫画が原作で映画化もされたが、単なる青春物語ではなく、音楽の哲学的な意味や音楽と人生のかかわりも描いた名作。美しいメロディーで埋め尽くした初演は生田絵梨花の好演もあって観客を惹きつけた。ロンドン、ソウルでの上演も絶賛され、今年8~10月に新たなキャストで再演される。

人気漫画と言えば唯一無二の人気を誇る「SPY×FAMILLY」の初演は一種の挑戦だったが、見事に成果を出した。2025年10~12月には森崎ウィン、唯月ふうか、朝夏まなと、鈴木壮麻らに新キャストを加えて再演。キュートな魅力で、ある意味主役のアーニャ役は大規模オーディションで選ばれるという。

高畑充希の美しい歌声が響く「ウェイトレス」(4~5月)や海宝直人ら豪華なメンバーがが再集結する「イリュージョニスト」(3~4月)も待望の再演が迫っている。

2024年の12月から上演が始まるミュージカルの金字塔「レ・ミゼラブル」は2025年2月まで東京で、3~6月まで全国で公演が行われるし、他にも既に人気が確立している「1789 バスティーユの恋人たち」「フランケンシュタイン」「キンキーブーツ」「ダンス・オヴ・ヴァンパイア」「マタハリ」「屋根の上のヴァイオリン弾き」に加え、あの「オペラ座の怪人」の続編としてファンに親しまれている「ラブ・ネバー・ダイ」も再演されるというから、しっかりと計画を立てて、鑑賞に挑んでほしい。

 

■記事内で紹介した、各種スケジュール情報

●「ケイン&アベル」=1月22日~2月16日に東京・渋谷の東急シアターオーブで、2月23日~3月2日に大阪市の新歌舞伎座で上演
https://www.tohostage.com/KANEandABEL/index.html

 

●「バック・トゥ・ザ・フューチャー」=4月6日から東京・竹芝のJR東日本四季劇場[秋]で上演
https://www.shiki.jp/applause/backtothefuture/

 

●「二都物語」=5月に東京・浜町の明治座で上演
https://www.tohostage.com/ataleoftwocities/

 

●「昭和元禄落語心中」=2月28日~3月22日に東京・渋谷の東急シアターオーブで、3月29日~4月7日に大阪市のフェスティバルホールで、4月14~23日に福岡市の福岡市民ホールで上演
https://rakugoshinju-musical.jp/index.html

 

●「四月は君の嘘」=8~9月に東京・三軒茶屋の昭和女子大学人見記念講堂で、9月に名古屋市のNiterra日本特殊陶業市民会館フォレストホールと大阪市内(劇場名は未定)で、10月に富山市のオーバード・ホールで上演
https://www.tohostage.com/kimiuso/index.html

 

●「SPY×FAMILLY」=10月に東京・日比谷の日生劇場で、11月に大阪市の梅田芸術劇場 メインホールで、11月に福岡市の博多座で、12月に山形市のやまぎん県民ホールと静岡市の静岡市清水文化会館マリナートと名古屋市の御園座で上演
https://www.tohostage.com/spy-family/

 

●「ウェイトレス」=4月に東京・日比谷の日生劇場で、5月に名古屋市のNiterra日本特殊陶業市民会館フォレストホールで、その後、大阪市の梅田芸術劇場メインホールと福岡市の博多座で上演
https://www.tohostage.com/waitress/

 

●「イリュージョニスト」=3月11~29日に東京・日比谷の日生劇場で、4月8~20日に大阪市の梅田芸術劇場で上演
http://illusionist-musical.jp/index.html

 

●「レ・ミゼラブル」=2024年12月20日~2025年2月7日に東京・丸の内の帝国劇場で、3月2~28日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで、4月6~30日に福岡市の博多座で、5月9~15日に長野県松本市のまつもと市民芸術館で、5月25日~6月2日に札幌市の札幌文化芸術劇場 hitaruで、6月12~16日に群馬県高崎市の高崎芸術劇場で上演
https://www.tohostage.com/lesmiserables/

 

●「1789 バスティーユの恋人たち」=4月8~29日に東京・浜町の明治座で、5月に大阪市の新歌舞伎座で上演
https://www.tohostage.com/1789/

 

●「フランケンシュタイン」=4月10~30日に東京・池袋の東京建物BrilliaHALLで、5月に名古屋市の愛知芸術劇場大ホールと茨城県水戸市の水戸市民会館グロービズホールと神戸市の神戸国際会館こくさいホールで上演
https://www.tohostage.com/frankenstein/

 

●「キンキーブーツ」=4月27日~5月18日に東京・渋谷の東急シアターオーブで、5月26日~6月8日に大阪市のオリックス劇場で上演
http://www.kinkyboots.jp/

 

●「ダンス・オヴ・ヴァンパイア」=5月に東京・池袋の東京建物BrilliaHALLで、6月に名古屋市の御園座で、7月に大阪市の梅田芸術劇場メインホールと福岡市の博多座で上演
https://www.tohostage.com/vampire/

 

●「マタハリ」=10月に東京・池袋の東京建物BrilliaHALLと大阪市の梅田芸術劇場メインホールで、11月に福岡市の博多座で上演
https://www.umegei.com/matahari2025/

 

●「屋根の上のヴァイオリン弾き」=3月7~29日に東京・浜町の明治座で、4月5~6日に富山市のオーバード・ホール 大ホールで、4月11~13日に名古屋市の愛知県芸術劇場で、4月19~20日に静岡県富士市の富士市文化会館ロゼシアター大ホールで、4月24~27日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで、5月3~4日に広島市の上野学園ホールで、5月9~18日に福岡市の博多座で、5月24~25日に宮城県名取市の名取市文化会館大ホールで、5月31日~6月1日に埼玉県川越市のウェスタ川越 大ホールで上演
https://www.tohostage.com/yane/

 

●「ラブ・ネバー・ダイ」=1月17日~2月24日に東京・日比谷の日生劇場で上演
https://www.lnd2025.com/

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
阪 清和
共同通信社で記者として従事した31年間のうち約18年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。2014年にエンタメ批評家・インタビュアー、ライターとして独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞・テレビ・ラジオなどで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅・メディア戦略・広報戦略に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。雑誌・新聞などの出版物でのコメンタリーや、ミュージカルなどエンタメ全般に関するテレビなどでのコメント出演、パンフ編集、大手メディアの番組データベース構築支援、公式ガイドブック編集、メディア向けリリース執筆、イベント司会、作品審査(ミュージカル・ベストテン)・優秀作品選出も手掛け、一般企業のプレスリリース執筆や顧客インタビュー、メディア戦略・広報戦略コンサルティングや文章コンサルティングも。元日本レコード大賞審査員、元上方漫才大賞審査員。活動拠点は東京・代官山。Facebookページはフォロワー1万人。noteでは「先週最も多く読まれた記事」に25回、「先月最も多く読まれた記事」に4回選出。ほぼ毎日数回更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/)。noteの専用ページ「阪 清和 note」は(https://note.com/sevenhearts)

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