大切な人の旅立ちを、より清らかに美しく――「死に化粧」の世界
「死に化粧」という文化がある。
生前と同じ面差しで故人が旅立てるよう、専門の方に身だしなみを整えてもらう仕来たりだ。
(以前も経験したはずなのだけれど)今回祖母を見送るにあたり、改めて納棺の儀を目にした。
もう顔を仕上げるだけ、という段階になって、スタッフさんが「もういつでもご覧いただいて構いません」と声をかけてくださったのだ。
お気に入りの服を着て、穏やかに微笑む姿はまだ元気だった頃の面影をわずかに残している。
口元に紅まで差されるからか、祖父の時よりも念入りに感じる死に化粧を、母や親族とともに静かに見つめた。
はじめは茫洋とした気持ちで眺めているだけだったが、次第にその緩やかな手つきに目が留まる。
(あれが下地、あれがファンデーション?あ、でも今重ねられた方がそれなのかな)
肌の上にくるくると優しく広げられる化粧品たちは、私が普段使用しているものとはすこし違うように思えた。
なかでも印象的だったのは、てっきりチークかリップだと想像していた鮮やかなボルドーのアイテムが、顏全体に塗られても自然に馴染んでいたことだ。
いつの間にか魅入られたように集中していたが、そうしているうちに祖母は身支度を済ませた。
「違和感がないかご確認ください」
そう言われて覗き込んだ顔は、痩せた頬が心なしかふっくら見えるほどに艶を取り戻し、とてもきれいだった。
「今は薄めの口紅を使っていますが、もう少し華やかな色にされますか?」
とも気を遣っていただいたものの、落ち着きのある淡い紅色が祖母に似合っている気がしたので、母と相談して遠慮する。
最期に記憶に残る祖母が、この姿で良かったと思った。
もう苦しくも気に病むこともないのだと、はっきり分かる静謐な顔で。
そのまま斎場に送ってもらう際、どうしても気になりプランナーさんに「化粧道具って、何か特別なものを使われているんですか?」と聞いてみた。
そうしたら、やはり業者向けのブランドが存在するらしい。
それと一般的なメイク用品を組み合わせることで、あんなふうに塗り重ねても程よい質感に仕上がるのだと。
調べたところ、納棺師の方がプロデュースしたという『Monique』なるブランドがヒットした。
※参考:『Monique』公式HP(https://monique.jp/)
こちらの「クリームファンデーション」の赤がまさに前述した化粧品という感じである。
ぱっと見カラーアイテムのようだが、薄く広げればほんのりと血色感を与えるだけで、浮いたりすることはない。
おそらくBtoBのみで一般には流通していないと思われるものの、興味のある方は納棺師の世界を知る上でも、ぜひ調べてみてはいかがだろうか。