箱庭のような芸術――めくるめく「クッキー缶」との出逢い

福岡
ライター
kosaka
香坂

SNSを見ていると、たびたび目に留まるものがある。

それは私にとって「クッキー缶」である。

 

バレンタインシーズンにかこつけて、という感じになってしまったが、コンパクトな缶の中にひとつの世界観が閉じ込められているクッキー缶は、とにかく見た目が華やかで美しい。

 

和菓子の世界では「ふきよせ」と呼ぶらしい。

こちらも甘い干菓子やあられなどが身を寄せ合って可愛らしい。

 

 

 

そんなこんなで一度は買ってみたいなあ、と思ってはいたものの、基本辛党のわたくし。

クッキーは好きだが、湿気る前に食べきる自信がない。

家族の助けを借りるか?とも考えるが、みな生菓子を愛する者である。

 

手間暇をふまえると仕方がないが、何しろそれなりに高価なクッキー缶。

誕生日、記念日、お祝い事……と、手に入れる隙はどこかにないか試行錯誤しているうちに、いつの間にか時は過ぎていた。

 

 

 

そんな先日、私用で母と名古屋を訪れた時のこと。

「せっかく来たんだし、何か想い出に残るものを買いたい」と言われたものだから、それもそうだと駅近くの商業施設へ入った。

 

翌日の朝食を含め色々物色していると、ふいにひとつのお店に視線が引き寄せられる。

 

 

『銀の森』だ!

 

 

そこは、ずっと憧れていたクッキー缶のブランドであった。

木々を朧に隠す霧か、それとも深い海の中か。

幻想的な2色の青を映し出す缶のデザインは、さながらお伽噺の世界を体現するかのように煌めいている。

 

店内は重厚な大木の柱に支えられ、そこから伸びた枝が暖かなランプの光を携えていた。

 

まさか遠出した先で出逢えるとは……。

というのも、地元への出店がない上に出不精のため、ほぼ購入を諦めていたのである。

 

幸い誕生日が近い母も興味を惹かれたようなので、プレゼントの名目で真ん中サイズのクッキー缶を選んだ。

この機会に大きいサイズにしようかとも考えたが、やや怖気づいてしまったのだ。

 

 

 

帰宅したのち、さっそく実家で缶を開いてみた。

『森の恵みクッキー』と名付けられたそれは、素朴でありながらこだわりを感じる品々が並び、どれから食べようか迷ってしまう。

 

とりあえず説明書きを参考にしよう、と同封されていたペーパーを見る。

すると、「どんぐり」「クコの実」「クマ笹」「木苺」など、他ではあまり経験したことのないワードが飛び込んできた。

 

えっ、本当に森の素材なの?

 

失礼ながら、そんなことを思う。

正直デザインに気を取られすぎて、中身は普通の美味しいクッキーなのだろうと勝手に決めつけていた。

 

とはいえ、その認識に間違いはなかった。

実際に口にしてみると、個性的な風味もしっかりと活かされた、大変美味なクッキーだったからだ。

 

さくさく、ホロホロ、じゅわり、しっとりなど、それぞれに食感が異なるのも楽しい。

これは多分こちらのお店の手腕もあれど、様々な種類が集まったクッキー缶の醍醐味でもあるのだろう。

 

上品な味ゆえにどちらかといえば大人向けかもしれないが、そのお陰か本来生菓子派である家人の舌にも合ったらしく、瞬く間になくなってしまったのが強いて言えば悔しいところである。

 

やっぱり、大きい缶を買えば良かった。

というか、季節限定の缶も一緒に買うべきだった。

旅先でのことだったからこそ、帰りの荷物など気にせず大盤振る舞いすべきだった……と、後悔しても時すでに遅し。

 

また機会があれば必ず手に入れよう、と決意しつつ、今回クッキー缶というものの魅力を知ることができて良かった、と心から感じる。

 

 

 

眺める楽しみ、選ぶ楽しみ、食べる楽しみ。

そして役目を終えた後も“映える”缶。

まさに味わえる芸術作品とでも言うべきか。

今後も何かと理由を付けて手を出してしまうに違いない、と密かに確信している。

プロフィール
ライター
香坂
オリジナル会葬礼状のライター業を経て、現在はWEB系のフリーライターとして活動中。漢字とひらがなのバランスに悩むのが好き。仕事におけるモットーは「わかりやすく、きれいに」。趣味はお酒・アイドル・展覧会鑑賞・化粧品。創作は何を書いても不穏な雰囲気になるのが強み、かもしれない。

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