寝坊した日のこと

宮城・仙台
ライター
KIROKU vol.14
佐藤 綾香

 

朝目覚めたら、家を出る予定時間の10分前だった。

どうやら目覚まし時計をセットするのを忘れてそのまま寝てしまったらしい。

こんなに寝坊したのは、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。

 

焦ってはいるけれど比較的頭は冷静に働いていて、家を出なければならないデッドラインの時間をスーパーコンピューターのごとく瞬時にはじきだす。

最低でも今から20分後には家を出たい。いや、出なければならない。

その日は午前中からお昼にかけて何ヶ月も心待ちにしていた講座に参加する予定だった。

どうがんばっても10分は遅れるだろう。

でも、もしスタート自体が遅れたら、しれっと間に合う可能性がある。そんな希望を胸に、準備にとりかかる。

 

しかしふと「お腹が空いたらどうしよう」という不安が頭をよぎる。

いつもなら朝ごはんは後回しにするところだが、今日は講座に参加する日。

きっとそれは静かな空間で行われるはずで、はじめましてのひとが大半。

お腹が鳴る音が盛大に響いてしまったら恥ずかしくてたまらない。

気づいたらわたしは、すでに炊かれていた白いご飯のうえに卵をわっていた。

無事5分で卵かけご飯を作ってたいらげたが、時間が経つのはあっという間だった。

あと10分ほどで身支度を整えなければならない。

 

歯を磨き、顔を洗い、肌を整える。残された時間はあと5分。

 

思考停止で適当に着替えをすませ、お化粧もチャチャっと終わらせる。

バッグに財布と筆記用具を入れ、あとは家を出るだけ。

何度か忘れ物を思い出し、なかなか玄関にはたどり着かない。部屋から玄関の距離で行ったり来たりを2度繰り返す。

玄関を出て鍵を閉め時計を見ると、デッドラインを5分も過ぎていた。

 

急いで車に乗り込み、目的地を目指す。

デッドラインは過ぎてしまったものの、自分のなかではパーフェクトだった(寝坊したわりには)。

道もそれほど混んでいるわけでもなく、さらにわたしの土地勘や予測がうまくハマり、予想通り10分ほどの遅れで済んだ。

車を目的地近くのパーキングに停めて歩き出そうとすると、信じがたい事実に直面する。

上着がない。

着替えたことに満足したまま上着を忘れた。

 

ここは真冬の東北。今日はきれいに晴れているとはいえ、2月に上着を着ないで外を歩くなんてもってのほか。

ニットは着ているし目的地までは徒歩5分以内だけれど、上着のないまま外を歩くのはかなりしんどい。

でも寒いと口にしたら負けだとおもって(具体的になにに負けるのかはいまいちわからないが)、わたしはかたくなに「けっこう平気」と思い込むようにした。

 

 

たかが上着、されど上着。ほんとうは「けっこう平気」ではない。

わたしに忘れられたモノのことを想うと、かわいそうなことをしてしまった、とおもう。

小さい頃に大切にしていたぬいぐるみや絵本も、いまはどこにあるんだろう。

大切なモノはいつだって大切にしていたいものだ。

 

 

プロフィール
ライター
佐藤 綾香
1992年生まれ、宮城県出身。ライター。夜型人間。いちばん好きな食べ物はピザです。

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