認知症は”終わり”ではない――映画『オレンジ・ランプ』

福岡
ライター
kosaka
香坂

3月8日、私は博多にある「電気ビル共創館&みらいホール」を訪れていた。

母がケアマネージャーを務める関係で、福祉を題材とした映画の上映会に参加しないか?と誘われたのがきっかけである。

 

私自身は門外漢だが、間近でその背を見て育ち、祖母の介護のサポートなどを通じてケアマネージャーという職業の苦労は常に想像してきた。

 

とはいえ、実際に体験しなければ分からないことも多い。

今回の映画は俳優たちが忠実に基づき演じるドキュメンタリーのような形式だと聞き、少しでも理解を深められればと同行したのだが、予想以上に感動し、かつ考えさせられる作品だった。

 

 

タイトルは『オレンジ・ランプ』。

39歳という若さで“若年性認知症”と診断された只野晃一さんが、妻子や職場、社会などとどう向き合って行くかが描かれている。

 

正直、世代的にも他人事ではない、と思う。

重ねて見るならば夫が突然認知症になったら、という視点になっても良さそうなものだが、最近記憶力や集中力の衰えを懸念していたこともあり、自然と「自分が当事者であったら」の姿勢で鑑賞していた。

 

妻、真央さんは朗らかで優しく、認知症と診断された夫に対しても一見適切な対応をしているように見える。

しかし、当人からするとその気遣いこそが、言い知れぬ悔しさやもどかしさを感じさせることもあるのだ。

 

私も「こんな対応をされたら泣いてしまうだろうな」と思ったが、それも感動半分、ジレンマ半分といった感情になるのが想像できる。

 

家族からは心配され、職場では下手に仕事を任せられないという扱いをされ、「自分はもう何もできないのか」と雁字搦めになってしまう苦しさ。

 

自分も、例えば家族や職場の人が当事者になったら、そういう接し方しかできなかったかもしれない。

「認知症になったら人生終わり」という偏見が、私の中にも確実にあったからだ。

 

でも、そうじゃない。

本作では実在する「日本認知症本人ワーキンググループ」主催の会に参加した時から、只野さんの活路が見えてくる。

 

これはあくまでも「認知症当事者同士のコミュニティ」であり、よくイメージされるような家族が付き添う形ではないのが特徴だ。

そこで、以前はトップ営業マンだった自分と似た境遇の男性と出逢い、どのような工夫をして仕事を続けているかを知ったことで、病との向き合い方が変わってくるのである。

 

視聴者からしても「これから明るい人生が芽生えそうだ」と分かる場面で、何となく安心したシーンであった。

 

認知症に限らず、例えば仕事や生活などでも同じ境遇の人と接し、その人がどんな風に悩みを解決したかを聞いて刺激を受けることは少なくない。

 

特に病気等の場合は他の誰かに迷惑をかけること、恥をかくことを恐れ塞ぎこんでしまいがちになるのは想像に難くないが、外に出て前向きに生きようという気持ちがあれば、それを受け入れてくれる心強い場所が存在するのだ、と考えさせられた。

 

只野さんご本人は、今も認知症と向き合いながら元気に暮らしている。

行政を通じて同じ病を抱える人々の相談に乗ったり、講演会を開いたりすることも増えたそうだ。

先輩から溌溂と生きるきっかけをもらい、また自分が誰かを勇気づける存在となる。

ちいさな灯りでも、皆が光を燈(とも)し、連なればいずれは太陽のように辺りを照らすだろう。

そうやって、かけがえのない輪が広がってゆく。

 

 

オレンジ・ランプ

キャスト・スタッフ

貫地谷しほり 和田正人
伊嵜充則 山田雅人 赤間麻里子 赤井英和 中尾ミエ
監督:三原光尋 企画・脚本・プロデュース:山国秀幸 脚本:金杉弘子 音楽:宮﨑道
主題歌:THE CHARM PARK「セルフノート」 原作:山国秀幸「オレンジ・ランプ」(幻冬舎文庫)

企画協力:丹野智文 推薦:厚生労働省 文部科学省選定作品
製作:「オレンジ・ランプ」製作委員会(ワンダーラボラトリー/JR西日本コミュニケーションズ/アイ・ピー・アイ/ギャガ/朝日放送テレビ/朝日新聞社)
上映時間:100分 ©2022「オレンジ・ランプ」製作委員会

公式HP:https://www.orange-lamp.com/

上映スケジュール:https://carenin-cinema.com/schedule/orangelamp/

※現在も「自主上映」にて全国的に公開中です。お近くで開催される方はぜひご覧ください。

プロフィール
ライター
香坂
オリジナル会葬礼状のライター業を経て、現在はWEB系のフリーライターとして活動中。漢字とひらがなのバランスに悩むのが好き。仕事におけるモットーは「わかりやすく、きれいに」。趣味はお酒・アイドル・展覧会鑑賞・化粧品。創作は何を書いても不穏な雰囲気になるのが強み、かもしれない。

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