Ich gehe wandern. (ハイキングに行きます)

宮城・仙台
ライター
KIROKU vol.15
佐藤 綾香

 

歩きたい。とにかく大自然に包まれながらゆっくり歩きたい。最近のわたしは、いわゆる、ハイキングに行きたくてたまらない。

2人でも、3人でも、誰かと一緒でもいいのだけれど、ひとりで大自然のなかを黙々と歩いてみたい。

 

きっかけはよくあることで、疲れをリカバリーできていない自分にふと気がついたからだった。
働きつづけ、そして頭をフル回転させつづけていると、当たり前だが身体も心も思い通りに機能しなくなってしまう。

これじゃあいかんと、2日間の連続休みをつくって自分の好きなことをしようと思い立ち、気が済むまで眠りにふけった。

しかし気持ちよく眠れたのはいいが、眠りすぎたせいで頭がガンガン痛くなるは、心身ともにダルさが残るは、疲労回復とはならなかった。

 

眠りすぎもダメなのかと、気になっていたドラマや映画をひたすら見まくる休日の過ごし方を次に試した。

この結果も、振るわなかった。

なんだか、途中からコンテンツを消費することに目標がすり替えられ自分でタスクを増やしているような気持ちになり、さらに目は疲れて、結局は泥のように眠ってしまった。

そして頭がガンガン痛くなるは(以下略)……。

 

ただ、収穫はあった。

ドラマや映画をひたすら見ていたその日の天気はくもり。

寝転がりながら窓から望む景色をぼんやり見ていると、なぜか思い出したのは学生時代に小雨のなか半日も新潟の田舎道を歩いた記憶だった。

当時はとある大学の研究生として新潟に住んでいて、しかも期限は一年と決めていたから、この地で経験できるものはなんでも経験して吸収してやろう、と息巻いていた頃である。

研究の面倒を見てくれていた先生が「いい日帰り温泉もあるし、有名な湖もあるから、時間があったらぜひ寄ってみて」とせっかくおすすめしてくれたので、23〜4歳だったわたしはある日、水原という地に電車で向かった。

レンタカーを借りるとか、そういう考えもお金もなかったし、前の年までは東京に住んでいたからか、Googleマップと電車があればなんとかなるだろうと思い込んでいた。

あと、若さゆえか、頭の片隅では歩けばなんとかなるという謎の余裕はあった。

ところが駅から温泉までは、たしか徒歩2時間くらいかかった。

距離感は事前に調べていたので想定内だったのだが、実際に歩いてみるとそれはそれは果てしない道のりだった。

天気は小雨とくもりを繰り返していて、さらに気温もそれほど高くはなかったからか、ひとりで歩くことへのものさみしさに拍車がかかったのを覚えている。

まわりには人っこひとり歩いておらず、通るのは車ばかり。

時折、すれ違うドライバーから「なぜこんなところをひとりで歩いているの?」といった心配の目を向けられるのだが、いちいち気にもしていられないので前のみを目指すことに集中した。

歩きながら見える景色は山ばかりで、どんよりした天気のなか、温泉地だからか山から湯気がもうもうと上がっているのもわたしをさみしい気持ちにさせていた。

無事、温泉地には到着したのだが、日帰り温泉に入った記憶がない。温泉に入らなかった理由は忘れてしまった。

でもなにかしらの事情があって入るのを断念し、駅まで引き返した気がする。

駅まで引き返した、と簡単に書いてしまったけれど、今度は駅に向かって同じ条件で約2時間歩かなければならない。

さすがに途中でおなかが空いてきて、ようやく見えたお食事処でありつけた釜飯は尋常じゃなくおいしかった。

そんな記憶を一通りたどったあと、よくやったもんだと当時の自分を労ったら、なんとなく、もう一度あんなふうに歩いてみたい、という気持ちが呼び覚まされた。

人は忘れる生き物だから、当時の自分がどれだけ歩いて疲れたのかがもう思い出せない。

絶対に大変だったはずなのに、大自然のなかをゆっくり歩けば気持ちよさそうな気がする、とちょっぴり思ったら、そんな想いがだんだん「ちょっぴり」どころではなくなり、いつしかハイキングを渇望するまでになってしまったのだ。

たぶん、いまのわたしが感じている疲労には、ハイキングが効く可能性がある。

自宅で疲労回復できなかったのだから次は思い切って外に出てみよ、という身体からのメッセージなのかもしれない。

 

 

学生時代、わたしは第一外国語でドイツ語を専攻していたのだけれど、例文に登場するドイツ人のほとんどは週末になるとスキーやサウナ、水泳、ハイキングなどに行きたがった。

たとえばこちらから友人に電話をかけるシーンの例文では

「日曜日は暇ですか?」

「いいえ、スキー/サウナ/ハイキングに行きます」

といったように、登場人物はアウトドアの予定でギチギチだった。

 

ドイツ人ってほんとうにアウトドアがすきなんだろうな、と「わたしはやらないけど」なんて距離をとりながら考えていたけれど。

まさか、インドア派の自分が「ハイキングに行きたい」と切望する日がこようとは。

 

ドイツ語の例文に登場した人物たちの気持ちが、いまならわかる。

 

 

プロフィール
ライター
佐藤 綾香
1992年生まれ、宮城県出身。ライター。夜型人間。いちばん好きな食べ物はピザです。

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP