相乗効果半端ないファンクがかき乱す感情、創造性詰め込まれた音楽劇

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

 ヒトラーが独裁者になる過程をシカゴのギャングの勢力拡大と重ね合わせたブレヒトの戯曲「アルトゥロ・ウイの興隆」。「オーサカ=モノレール」の生演奏で全編を貫くジェームス・ブラウンのごきげんなファンクはヒトラーがワーグナーを利用して国民を高揚させたことと時空を超えてリンクする。エンターテインメントを知り尽くした草彅剛の魅惑的なパフォーマンスがこの作品に施された数々の創造性とスパークする。相乗効果は半端ない。(舞台写真撮影:細野晋司) 

 つかこうへいに鍛えられた演技センスを活かして活躍する草彅と俳優・演出家の白井晃。この組み合わせは今回が初めてではない。アイルランドの鬼才エンダ・ウォルシュの不条理さと詩情がない交ぜになった2018年の摩訶不思議な舞台「バリーターク」でもタッグを組み、互いの鋭い感性を一瞬にして認め合った間柄だ。

  ウイが挑発し、脅し、鋭く切り込むクールで強圧的な攻撃は、ファンクの激烈な疾走感にあおられる。後方のステージでの演奏や歌と、前方での芝居がほぼ交互に繰り返され、互いに高揚し合いながら、物語の沸点へと爆走を続ける緊張感は観客の心を揺らす。

 しかもこの物語が油断ならないのは、彼らの悪辣さゆえではない。ヒトラー、そしてアルトゥロ・ウイ…。彼らを生み出したのは誰か、を私たちに突き付けるからだ。

  音楽劇「アルトゥロ・ウイの興隆」は、2020年1月11日~2月2日に横浜市のKAAT神奈川芸術劇場で上演される。

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター
阪 清和
共同通信社で記者として従事した30年のうち20年は文化部でエンターテインメント分野を幅広く担当。2014年にフリーランスのエンタメ批評家として独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体などで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アートに関する批評・インタビュー・ニュース・コラムなどを幅広く展開中です。パンフレット編集やイベント司会も。

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