遊び心が壮大な作品に結実、井上ひさしの「天保十二年のシェイクスピア」

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

 クリエイティブな仕事には遊び心が必要だ。「天保水滸伝」をベースにシェイクスピアの37編の戯曲をぶち込む荒業を1974年にやった人がいる。それは2、3月に東京・大阪で上演中の音楽劇「天保十二年のシェイクスピア」を書いた劇作家、井上ひさし。「高尚な芸術」として難しい顔で見ていた創作当時の「意識高い系」エセ文化人への皮肉も込められていたようだが、壮大な仕掛けで人間らしいシェイクスピア戯曲の魅力を伝えることに成功。だから上演中の現代の劇場では誰も難しい顔をしていない。これこそ、シェイクスピア!(舞台写真提供・東宝演劇部)

 江戸末期、旅籠を仕切る十兵衛は後継者選びのため娘3人に「どんな親孝行をしてくれるか」問いただす。「リア王」的描写に始まり、「ハムレット」、「マクベス」、「ロミオとジュリエット」などの要素を次々取り込む鮮やかさ。「ヴェニスの商人」の人物名を劇中の擬音として使う「ひと言」引用など愛嬌あふれる趣向も。400年離れた時代に生きた2人の劇作家は時空を超えて通じ合った。

 井上が率いた「こまつ座」で奮闘してきた辻萬長のほか、戯曲の詩的な響きを最も的確に表現する木場勝己やミュージカル界の貴公子、浦井健治、人気絶頂の高橋一生ら実力派が参加。「ジャージー・ボーイズ」を大成功に導いた藤田俊太郎の演出も加わり井上の「遊び心」はさらに強力な作品となって結実した。

 音楽劇「天保十二年のシェイクスピア」は2月8~29日に東京・日生劇場で、3月5~10日に大阪・梅田芸術劇場で上演される。

プロフィール
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阪 清和
共同通信社で記者だった30年のうち20年は文化部でエンタメ分野を幅広く担当。2014年にフリーランスのエンタメ批評家として独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体などで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アートに関する批評・インタビュー・ニュース・コラムなどを幅広く執筆中です。パンフレット編集やイベント司会も。元日本レコード大賞審査員、元上方漫才大賞審査員。今春以降は全国の新聞で最新流行を追う記事を展開。活動拠点は渋谷。

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