魅惑的で底が見えない映画という魔物、ミュージカル「サンセット大通り」

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

 自分がたずさわる仕事や業界を描く作品は興味深い。だからビリー・ワイルダー監督がハリウッドで見聞きした話などから想像を膨らませて映画業界の裏を描いた1950年公開の映画『サンセット大通り』は映画人に大受けした。一部の経営陣は映画界の暗部を突かれて激怒したようだが、21世紀になっても「アメリカ映画ベスト100」の16位に選ばれるほどだから、評判の高さは分かるというもの。

 無声映画の大スター女優ノーマ(安蘭けい・濱田めぐみ)が、戻る場所などないことに気付かないまま、お金だけはありながら果たせないでいる映画界への「電撃復帰」という夢を果たそうとする哀しい物語。映画も妖しさに満ちていたが、アンドリュー・ロイド=ウェバーが1993年に初演し、今回2度目の再演が行われた日本人キャスト版のミュージカルは舞台上からその妖しいオーラを激しく明滅させ、世界観が増幅している。

 ノーマに見込まれた売れない脚本家ジョー(松下優也・平方元基)に自作脚本の手直しをしてもらいながら恋心も芽生える。したたかにかわすジョーとは不思議な連帯感も。一方でジョーは脚本家志望のベティ(平野綾)とは物語論を交わしながらのクリエイティブな交流を続け、互いを高め合う予感も漂う。しかし事態は人間的な業のぶつかり合いによって風雲急を告げる。そして訪れる悲劇…。

 誰もが映画という魅惑的な芸術にうっとりしつつも、その底の見えない世界に戦慄も覚える。このミュージカルを単なるバックステージ(楽屋)ものだと思っていたらとんでもない衝撃を受けるだろう。ミュージカル「サンセット大通り」は2020年327日まで東京国際フォーラム・ホールCで上演。(写真はミュージカル「サンセット大通り」の一場面=撮影・宮川舞子/写真提供・ホリプロ)

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター
阪 清和
共同通信社で記者だった30年のうち20年は文化部でエンタメ分野を幅広く担当。2014年にエンタメ批評家として独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体などで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・現代アート・ウェブカルチャーに関する批評・インタビュー・ニュース・コラムなどを幅広く執筆中です。パンフレット編集やイベント司会も。今春以降は全国の新聞で最新流行を追う記事を展開。活動拠点は渋谷。ほぼ毎日更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/)

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP