やわらかな金属は鳴くらしい
観光地へ行くと金箔がびたーんと貼られたソフトクリームがあるように、金沢は箔工芸、つまり金属を使った職人技が残る街でもあります。
そしてお隣の富山県は高岡市にもまた、「高岡銅器」という伝統工芸を進化させながら受け継ぐ職人技があります。
先日、友人と富山でランチをしようということになり、オシャレなお店があるということで連れてきてもらったのがここ「能作」さんです。
え、これはご飯が食べられるところなのかしら…
「能作」は高岡銅器を代表する老舗鋳物屋さんなのですが、その名は聴けど実際にお店へ伺ったのは初めてです。
「高岡銅器」や「鋳物」という言葉にポップなイメージを持ち合わせていなかったわたしは、ギャラリーのようなショップに並ぶおしゃれな器や雑貨、そして併設するカフェにただただ驚いてしまいました。
とりあえずお腹がすいていたので、カフェへ。ベーグルの食べ放題セットや自家製のピザセットに心揺れながら、スタッフのお姉さんお薦めの職人カレーセットをいただきます。
華美すぎず、シンプルでスタイリッシュ。野菜たっぷりの料理が盛り付けられた素敵な器や、しっかり冷えているのに水滴がつきにくいグラスは確かに使ってみると、なるほどいいものだとわかって欲しくなる。
大正5年創業の能作は長らく、高岡銅器を代表するような仏具や銅像などを製造してきましたが、現在では伝統の鋳物技術を使った「錫(すず)」製のインテリア雑貨やテーブルウェアに人気が集まっているそうです。
錫は抗菌作用なども高く、酸化もしにくいので、テーブルウェアに適した金属なんですって。イオン効果でタンブラーやグラスに入れたお酒や水もまろやかにするそう。
混じりけのない錫100%でつくった製品は、やわらかく手で簡単に曲げられるという特性を大いに生かしています。
錫は曲げるときに「ピキピキ」と独特の音がするそうで、「錫鳴き」といいます。これは錫の中の分子が鳴る音だそうで。
「分子が鳴る」。科学や物理さっぱりのわたしにはそれだけで摩訶不思議です。
一見シンプルなようで、自分のかたちや好みに変えられる。既製品なのにまるでオーダーメイド。そんな魅力が錫にはあります。
富山県高岡市はあの藤子・F・不二雄さんの出身地でもあるので、ドラえもんの商品もありますよ。
なんとも不思議で素敵な錫の世界でした。