2020.04.25
舞台でじっくり培った演技力でドラマでも開花、「スカーレット」の松下洸平
東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和氏
大量の演劇人を投入して大成功をおさめるドラマも増えてきたが、実際はテレビと舞台の間の壁は想像以上に高い。そんな双方の関係を考える上で、3月まで放送されていたNHK連続テレビ小説「スカーレット」で主人公、川原喜美子の夫、八郎を演じた俳優、松下洸平の大ブレークは興味深い材料だ。
シンガー・ソングライターとしてデビューし、ドラマにも出演していたが、彼の名を高めたのは舞台。ミュージカルで演出家らに認められ、真摯な努力を続けたことで演技力も開花。ついには舞台「母と暮せば」などで賞をとるまでに成長した。
そんな松下がこれまで落ち続けていたNHKのオーディションで、重要な役柄を獲得したのだ。朴訥としているのに謎が多い。草食系のように見えて時折見せる「男」の部分。脚本の水橋文美江の練り込まれた表現や、主演、戸田恵梨香との繊細なコンビネーションとも相まって、八郎になりきった松下の演技は視聴者を一瞬にして魅了した。しかも、戸田との間だけでなく、親友の信作役の林遣都や息子の武志役の伊藤健太郎、義父役の北村一輝との間にもそれぞれ違う化学反応が出現。一種の共同作業によって八郎のキャラクターは生み出されたのだ。
読み込みや稽古、本番での反復など、じっくりと演技の力を培っていく舞台という場所で松下の土台が出来上がったことは間違いないだろう。ドラマの世界ではそこに相手に応じて変化させたりする柔軟性と勇気も加わって、出演者が互いを刺激し合うこの名作ドラマが生み出されのだ。
表情などの細かい表現力や撮影現場での瞬発力が鍛えられるドラマでの経験は、松下をさらに面白い存在にしてくれるだろう。
プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター
阪 清和氏
共同通信社で記者だった30年のうち20年は文化部でエンタメ分野を幅広く担当。2014年にエンタメ批評家として独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体などで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アートに関する批評・インタビュー・ニュース・コラムなどを幅広く執筆中です。パンフ編集やイベント司会も。今春以降は全国の新聞で最新流行を追う記事を展開。活動拠点は渋谷。ほぼ毎日更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/)