「作品狩り」につながらないか冷静な議論を、『風と共に去りぬ』配信停止問題
演劇からいったん離れるがクリエイターならこの問題どう考えるか。皆さんに問うてみたい。米国の動画配信サービス大手「HBOマックス(HBO Max)」が映画『風と共に去りぬ(Gone with the Wind)』を「民族・人種差別的な表現がみられる」としてストリーミング配信のコンテンツからいったん削除したのだ。確かにこの作品に登場する奴隷は主人公ら奴隷所有者に対して従順的で、物語全体も奴隷所有者を英雄的に描いている面は否めず「差別的」と受け取られても致し方ない。世間では名作ともてはやされているが、黒人からは以前から評判が悪い。それが警察官の常軌を逸した拘束によって黒人男性、ジョージ・フロイドさんが死亡した事件を受けて米国など各国で人種差別と警察の暴力に抗議するデモが拡大したことで放送・配信各社も対応を迫られているのだ。
映画『風と共に去りぬ』は、世界的なヒットとなったが、公開当時から、奴隷だった黒人の描き方などが「差別的」で、白人至上主義の秘密結社「KKK(クー・クラックス・クラン)」の肯定的な描き方などもあって、今回の暴行事件以前から、黒人からは敵対視されてきた。製作陣は、原作にある差別的な表現などを極力省いたようだが、それでも批判にさらされてきたのも事実だ。
ただ今回の措置には、米国でも一部に安易な「作品狩り」だとの批判があり、HBOマックスは人種差別の歴史的背景に関する議論や説明を追加した上で配信を再開する予定だという。削除する前に差別の歴史を学び偏見をなくすための教育的な映像を必ず一緒に試聴させるなど、啓発の方法はたくさんあったはずだ。警察官の活躍を描いた作品にも排除の動きがあり、一度双方が冷静になるべきだろう。
「作品の舞台となる時代の社会を正確に描く」という姿勢と「公開する時代における正義や解釈の視点で描く」という姿勢は時に相容れないこともあるだろう。しかしそこをうまく表現するのが、クリエイターの真骨頂。クリエイターも視聴者も思考停止にならず、常に考え続けることこそ重要だ。