ひと夜限りのミュージカルを無観客で有料配信、東宝の「実験室」プロジェクト

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

 新作でオリジナル、そしてひと夜限り-。新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から閉鎖されていた東京・日比谷のシアタークリエが本格的再開への序章と位置付けた「TOHO MUSICAL LAB.」が7月11日に開催。新作ミュージカルの「Happily Ever After」「CALL」が上演され、ネットで配信された。(写真はミュージカル「Happily Ever After」の一場面、写真提供・東宝演劇部、撮影・桜井隆幸)

 慎重さは求められるが大胆な挑戦のチャンスでもある。そこから「クリエを実験室に見立て、新しいことに挑戦する」という考え方が出てきた。約1カ月後の上演というオファーを快諾したのが、劇作家・演出家を兼ねる2人、三浦直之と根本宗子。11日の上演で驚かされたのはその演劇としてのレベルの高さだ。

 三浦の「CALL」では、誰もいない森の中の廃墟でコンサートを開く三姉妹とかつて劇場で撮影を担当していたドローンとの「舞台芸術」についての哲学的でロマンチックな交流が描かれた。時間と空間を埋める静寂と音楽の使い方が秀逸で、一つ一つの音にすべて意味があるのではないかと感じるほどの出来上がり。出演は木村達成、田村芽実、妃海風、森本華。

 ミュージカル界の次世代トップを担う生田絵梨花・海宝直人を起用した根本の「Happily Ever After」では、夢の中で出会う2人の男女が織りなす謎めいたやり取りが惹きつけた。誰かを深く知ることへの怖れなど普遍的な心の様相やコロナ禍での新しい問題なども材料に、優しい気持ちにたどり着くまでを繊細に織り上げた。心の風景を描き出すダンサー、rikoの存在も貴重だ。

 クリエで無観客実演され、観客は事前に「視聴券(税込3800円)」を購入して生配信を視聴。劇場の観客が増やせない間は、こうした仕組みも利用されるだろう。いずれ観客を入れての再演や、「CALL」のメンバーによるコンサート、「Happily Ever After」にさらに壮大な世界観を導入しての本格ミュージカルなども観てみたいものだ。

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター
阪 清和
共同通信社で記者だった30年のうち20年は文化部でエンタメ分野を幅広く担当。2014年にエンタメ批評家として独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞などで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを幅広く執筆中です。パンフ編集やイベント司会、作品審査も手掛け、一般企業のリリース執筆や広報・文章コンサルティングも。今春以降は全国の新聞で最新流行を追う記事を展開します。活動拠点は渋谷。Facebookページはフォロワー1万人強。ほぼ毎日数回更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/ )

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