いくつもの難関初めてのことばかり、模索の中始まるコロナ時代の演劇
演劇界が動き出した。無観客の配信限定で始まった公演から観客を入れる段階へ進み、帝国劇場では全公演が中止されたミュージカル「ジャージー・ボーイズ」をコンサート形式で上演、新国立劇場ではミヒャエル・エンデの家族向け舞台「願いがかなうぐつぐつカクテル」が上演された。小劇場も動き出している。新型コロナウイルスの感染防止対策を幾重にも施し、徐々に力強さを取り戻している。それでも主催側も観客側も初めてのことばかり。いくつもの難関が待ち構える。
帝国劇場では劇場前でサーモグラフィによる体温測定を通過し、自分でチケットの半券をもぎって箱に入れたら、消毒液を手に吹きかけられる。来場者カードに名前や連絡先を書かせる劇場もある。実はもぎりははなかなかに難しい作業。微妙な力を均等にチケットのミシン目に集中させないと、破けてしまう。いつもスムーズにもぎってくれている劇場の方々に尊敬の目を向けたくなる。案内係も無言でパネルや紙を持って通路を歩く。冷房に弱い人のためのブランケットの貸し出しも中止。客席でのおしゃべりは禁止で、妙に静かな雰囲気のまま幕が上がる。
開演しても大声は厳禁。拍手と手振りで感情を表し、ペンライトを振る観客も。「ジャージー・ボーイズ」コンサートではノリノリの曲で歓声を上げられないことに観客は身もだえる。「願いがかなうぐつぐつカクテル」では戸惑い気味の大人たちと違い純粋に楽しんでいる子どもたちの笑い声が劇場に響いていたのが印象的だった。もちろん観客のマスク着用率は100%だ。舞台で人間を演じる俳優はマウスシールドを、動物役は動物をかたどったマスクをして演技。能楽でも祭りの芸能にヒントを得た布を口の部分にたらして飛沫を飛ばさない工夫が。ジャンルに応じ違和感をなくす配慮がなされている。
座席は前後左右を1席ずつ空け、定員のほぼ半分。観客は観やすいが、興行側にとっては赤字だ。有料配信で損失をどうカバーできるか。未知数だが、すべてを試してみるしかないだろう。