ミッション13「バンクシーを探せ!(国内篇)」
- ミッション13
- 電通第5CRプランニング局 クリエーティヴ・ディレクター / コピーライター 門田 陽
こんにちばんくしー!
さてと。バンクシーですか。最近よく聞く名前の一人。去年の10月にサザビーズで代表作「風船と少女(2004年ロンドンのテムズ川沿いに描かれたものにはTHERE IS ALWAYS HOPEというメッセージが付いていたが一般的にはGirl with Balloonとして知られている絵)」が100万ポンド(1億5千万円)で落札直後に額に内蔵されたシュレッダーで切り刻まれた映像はニュース等で何度も見ました。また今年の1月に小池都知事が港区の防潮扉にあったネズミの落書きをバンクシー作品だと保護したことも記憶に新しい出来事です。
ただの落書きとバンクシーの落書きは何が違うのか。最近日本各地で見つかるバンクシーのアート(落書き)は本物なのか。そもそもバンクシーって何なのかを自分の目と足で確かめることにしました。
バンクシー基礎知識
僕がバンクシーの名前を最初に知ったのは2004年か2005年。スタジオボイスやサブカル系の雑誌で取りあげられていて、その第一印象はアナーキーでキテレツでヘンなストリートアーティスト。それから数年で何回か政治的なメッセージを発信しているなと感じることがあり、あまり近寄りたい人ではなかったのです。が、2016年4月26日に渋谷のアップリンクで「バンクシー・ダズ・ニューヨーク」という映画を観て面白いと思い好きな感情が湧きました。
バンクシーとその作品(落書き)の特徴をまとめると大きく三つ。
その① 正体不明。これこそがバンクシーの最大の謎かつ魅力。イギリス人ということは否定していませんが年齢性別不詳。彼(?)に直接インタビューした人たちも暗黙の了解なのかこのことにはあまり触れていません。
イギリスのバンド「マッシヴ・アタック」の3Dという説や複数人説など噂は色々ありますがどれもいまだに噂です。
その② ステンシル。初期の頃は壁に直接描いたものもありますが、彼を有名にしたのはモノトーンを基調としたステンシル(型紙の上からスプレーで仕上げる技法)で描かれた作品の数々です。このやり方であればどこでも短時間で仕上げられるのでゲリラ的な活動に適しています。そしてステンシルのもう一つの長所は同じものを別の場所でも描けるということです。
その③ メッセージ性。バンクシーのアートが有名になったのは絵そのものの力もありますが絵に付けられた社会風刺や政治批判や反戦などのメッセージに寄るところも大きいと思います。とても強いメッセージと相反するチャーミングな絵のギャップがバンクシーの人気の秘密を保たせています。
これらの主な特徴を参考にしてこのところ話題になっているアート(落書き)の検証に出かけました。
現場確認① 東京都港区の防潮扉
小池都知事がしゃがんで嬉しそうにネズミの落書きと映った姿は多数のメディアで散々見ました。その鉄扉はすでに都によって外され鑑定にまわっているので今そこには何も描かれていない新しい扉がありました(※写真①)。場所はモノレールゆりかもめ日の出駅西口から徒歩2分の防潮扉。周囲を見渡す限り特に何もありません。ネズミが描かれていた低い場所の正面には横断歩道(※写真②)。付近を隈なく歩きましたが他に落書きは見当たりませんでした。強いていえばこの絵が描かれた場所の後ろにある建物の壁面画の手法がステンシルっぽいですが偶然だと思います(※写真③)。ニュース等では本物のようなことを述べていましたが、ここでネズミが何を訴えられるのか全くわかりません。実物を見ていませんが本物の必然性がない場所です。
現場確認② 千葉県九十九里浜
いや~、遠かった、九十九里浜。ネットにあった写真とわずかなブログの記事をヒントにJRとバスを乗り継いで向かった場所は九十九里浜の片貝漁港。東京から2時間。バスの終点海の駅九十九里で降りたのですが周囲は荒涼としています(※写真④)。海の駅(※写真⑤)のレジのおばちゃんに尋ねると以前にも聞かれたらしく「あ~、バンクシーの場所ね」と地図を出して手際よく教えてくれました。「え!車じゃないの?」という言葉がやや気になりましたがそこから徒歩17、8分。防波堤の上をつたって何とか到着。着いてみるとそんなムチャなコースでなく行けることもわかりました(※行かれる方は絶対車がオススメです!)。そこにあったのはあの有名な「風船と少女」(※写真⑥)。テムズ川のものとは逆向きですがこれはステンシルならではの反転とも言えるので問題ありません。近付いてじっくり見ました。そこそこ経年しています。海との景色が見事に嵌りきれいです。この日は平日でしたが、僕以外にもカップルやファミリーで見にきている人たちが数組いました(※写真⑦)。犬を連れて海岸を散歩していた地元の親子に尋ねたところ2年以上前から描かれていたとのこと。最近のブーム便乗ではなさそうです。周囲を確かめると同じ防波堤のすぐ横の面にも落書きがありましたが、これはまるで違ういわゆるヤンキータッチ(※写真⑧)。他にも周辺でいくつか見つけた落書きも全く関係ないものばかり(※写真⑨⑩⑪)でこの「風船と少女」だけが目の前の太平洋に向かって何かを叫んでいるようにも思えました。強いてネガな点をあげると少女の足が本物(※図録やネットの写真)と比べるとかなり細いです。全体的には「いいものを見たなぁ」という気分になる絵でした。
現場確認③ 千葉県印西市双子公園
う~~~、ここもまた遠かった。東京から距離的には九十九里浜の半分ほどなのですが、交通の便がきびしくて片道2時間以上かかりました。特に京成佐倉駅前から出るコミュニティバスは1時間に1本もありません(行ったのが休日のせいもあるけど)。行かれる方は間違いなく車がいいです。ただこのコミュニティバス、路線内であればどこでも好きなところで降ろしてくれるのは助かりました。地元の人が「ここで降りてあとは歩きなさい」という場所(※写真⑫)から徒歩15分。そのバンクシー(?)作品は二頭の象のオブジェがある公園(※写真⑬)のトイレにドカンと描かれていました。タイトルは「猿と銃」とか(※写真⑭)。近くでまじまじと見ました(※写真⑮)。よくできているというか、上手というか、悪くはない(上からでゴメンなさい)のですが、周囲はただのバイパス道路と空き地で何もなく、ここになにかメッセージ性を求めることはできませんでした。もし街おこしの話題づくりで誰かが仕掛けたのなら、引っかかってもそんなに気分は害しません。笑って許せるくらい上出来。
東京の落書き
今回のミッションを受けてからとにかく街なかをキョロキョロ見てしまうクセが付いたのですが、その中でどうしても目に入ってくるのが東京の落書き達(※写真⑯⑰⑱⑲⑳㉑)。これが実につまらないのです。記憶だと少し前の時代には前衛的なものやアートなものや見て笑えるもの等があったと思うのです。まず何より落書き自体が少ない。おそらく2020年に向かって行政がキレイに消しているのだと思います。かつての名残(※写真㉒)はありますが新作は見当たりません。これはもちろんいいことですが、どこの街も似た景色になっていくのはやや寂しい。日本のストリートアーティストは消えたのか、それとも息を潜めているのでしょうか。もしも村上隆や草間彌生が落書きした場合、その絵はどうするのでしょうかね。
現場確認④ 東京都港区新橋
そんな中。この2月12日のこと。通勤途中の新橋であのネズミを発見(※写真㉓)。その後雑誌等で取りあげられていましたが、近寄って見るとこれは実にニセっぽい(※写真㉔)。まずサイズ感がしっくりこない。描かれて間もないせいか色見が濃くてなじんでいないようにも思いました。これなら僕でもと言うと失礼ですが、僕の周囲にいる優秀なアートディレクターやデザイナー達ならいとも簡単に見分けのつかないニセモノを作れるはずです。そう考えると九十九里浜のも印西市のも怪しいと言えば怪しいのですが。
そしてミッションはつづく!
非公式ながらバンクシーは少なくとも過去に一度は来日しているようです。角度が高い情報では2017年に来日の際、日本でも何か痕跡を残したということですが、その真偽は本人のみぞ知ることです。バンクシーの公式とされる(?)ホームページには日本での作品の掲載はありません。今回現場確認したアートは一体誰が何のために描いたのか?その真贋も含め謎を解明するには少なくともこの目で本当に本物のバンクシーアートを見ないと何も言えないです。そこで今回のミッションはこれで終わらず引き続き行うことにします。次回の探検隊はニューヨークで本物のバンクシーのアートを見て改めて今回見た日本のバンクシーについての思いを述べます。 よしっ!行くぞニューヨーク!!!(自腹で 苦笑)